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ネット医薬品訴訟で勝った楽天に、ドラッグストア業界が反発

文=編集部

三木谷浩史新経連会長。いつまでもつ?
(「ウィキペディア」より)
 楽天の三木谷浩史会長兼社長には、またとない朗報だった。執念を燃やしていた医薬品のインターネット販売規制が撤廃されることが確実になったからだ。

 厚生労働省が省令で市販薬のインターネット販売を規制したのは違法だとして、販売会社2社が国に対してネット販売をする権利の確認などを求めた訴訟の上告審で、最高裁第2小法廷(竹内行夫裁判長)は判決期日を来年1月11日に指定した。二審の結論を見直す際に必要な弁論を開いておらず、ネット販売権を認めて国側逆転敗訴とした今年4月の二審・東京高裁の判決が確定する見通しとなった。

 訴えていたのは、ケンコーコム(東京都港区)とウェルネット(横浜市)の2社。両社は厚労省が大衆薬のネット販売を省令で規制したのは、憲法で保障された営業の自由を侵害していると主張した。これに対して国側は、副作用のリスクのある医薬品は専門家による対面での情報提供が不可欠で、規制には合理性があると主張してきた。

 一審の東京地裁は、ネット販売は購入者の状態を目で見て判断することが困難で、規制は安全確保のために合理的で適法とした。一方、二審の東京高裁は改正薬事法にネット販売に関する規定がない以上、販売を制限する根拠はないと指摘。省令による販売規制は法律の委任の範囲を超えて違法だと判断した。この判決を不服として国が上告していた。

 ネット医薬品の販売規制に反対する闘いに全面的に関わってきたのが、楽天の三木谷である。2009年2月24日、三木谷は厚労省で開かれた「医薬品新販売制度の円滑化施行に関する検討会」の初会合に、ネット通販業界を代表して出席した。

「なぜ、ネットだけがいじめられるのか分からない! ネット販売禁止という、結論ありきの検討会ならやめてほしい」と声を荒らげた。

 あまりの激昂ぶりに会場の空気が、一瞬、凍り付いたという。

 怒りの矛先は、厚労省が同年6月に実施する大衆薬のネット通信販売の禁止措置に向けられていた。厚労省は薬事法改正で、市販薬を副作用の危険性が高い順に1~3類の3つに分類した。省令で、一部の胃薬・毛髪薬などの第1類(「ガスター10」や「リアップ」)と、風邪薬、漢方薬などの第2類(「パブロン」など)には、薬局などでの対面販売を義務づけ、ビタミン剤や消化薬などの第3類のみのネット販売を認めた。うがい薬の「イソジン」、整腸剤の「ビオフェルミン」が第3類の代表例だ。

 ネット商店街・楽天市場を運営する三木谷は、ネット通販業界の危機感に押されて立ち上がった。ネット販売禁止に反対する急先鋒は、楽天の三木谷とケンコーコム社長の後藤玄利だった。

 今年6月、楽天はケンコーコムの第三者割当増資を引き受け、子会社に組み入れた。楽天の出資比率は51.3%。ケンコーコムは本社を福岡市から東京に移した。ケンコーコムを子会社にすることによって、親会社の楽天が裁判の前面に出てきたのである。

 同じ6月、IT業界の団体である「一般社団法人eビジネス推進連合会」を「新経済連盟」(新経連)に衣替えした。代表理事に就いた三木谷は「インターネット周辺から政策提言や政策立案に協力する。実現に向けたロビイング活動を展開していく」と語った。持論である医薬品のネット販売の全面解禁を働きかけていくということである。医薬品のネット販売規制に反対する運動が、新しい経済団体、新経連を立ち上げるパワーとなった。

 こんなデータもある。副作用のリスクの高い第1類医薬品の販売に際して、薬事法で義務付けられた規定に従い、薬剤師が文書を使って詳細な説明を実施した薬局・薬店は全国で5割にとどまっていることが、12月22日までの厚労省の調査で分かった。前回調査(10年)の約3割に比べて改善されているとはいえ、説明義務が徹底されていない実態が明らかになった。

 調査は11年11~12月に実施された。調査員が一般の客を装い、全国の6100の薬局などを訪問して、販売状況を調べた。

 厚労省によると、第1類医薬品を扱う4000店のうち、購入の際に文書を使った詳細な説明があったのは55.2%。前回の31.5%から上昇したが、口頭だけの説明や文書の配布のみのケースもあった。ただし、口頭の説明や文書の配布を加えると、全体の95.1%(前回は90.6%)が販売時点で何らかの説明を実施していた。

 厚労省は「100%であるべきで、今後、さらに徹底を促したい」としているが、この数字をどう見るかだろう。三木谷の主張するネットでの全面解禁の追い風になるのかどうかだ。

 しかし、三木谷のネット販売全面解禁の主張が、医薬品業界全体から受け入れられたわけではない。小林製薬は9月に始めた大衆薬のインターネットでの販売を、年内をめどに中止する。ネット通販開始後、反発するドラッグストア業界が小林製薬に対して、消費者の安全性や、ネット通販の実施に至った経緯を尋ねる質問状を出したという。小林製薬はドラッグストア業界に配慮してネット販売を中止した。

 医薬品のネット販売の全面解禁については、ドラッグストア業界と利害が真っ向から対立している。ドラッグストア業界をどうやって説得するのか。新経連代表理事としての三木谷の腕の見せどころである。

 ネット通販業界の勢力地図は時々刻々、変わっている。流通大手各社がネット通販に本腰を入れ始めた。人材派遣会社を大きな事業とするリクルートホールディングスは、13年3月にネット上で衣料や家電などの小売店が出店するショッピングモール型のインターネット商店街の運営に乗り出す。

 リクルートは、楽天の既存顧客や楽天市場に出店している小売店を奪うやり方をとるだろう。システム利用料は売り上げの2.5%に設定し、楽天市場の半分に抑える。顧客には購入額の3%をポイントとして付与する。楽天など競合サイトより1~2ポイント高くした。

 ネット通販では、衣料や食品に特化した専門業者は一定の顧客を獲得できる。問題はアマゾン、楽天、ヤフー、リクルートなどの大手業者だ。アマゾンは米国と同じ大型の配送センターと、無料配送のビジネスモデルを日本に持ち込み、強みを発揮している。楽天、ヤフー、リクルートのようなショッピングモール型のネット商店街は、顧客の数と出店者数の多い少ないで勝負が決まる。

 楽天市場に出店している店の総売り上げ額は、1兆円を超えた。だが、一発ヒットが出れば、逆転がありうるのがネットの世界だ。ネット商店街の元祖、楽天といえども、その地位は安泰ではない。ネット通販業界は戦国乱世に突入した。

 地味な動きだが、楽天は13年1~3月期から国際会計基準(IFRS)を適用する。主力のインターネット通販をはじめ、電子商取引(EC)の海外展開を進めており、世界のライバル企業と同じ(決算の)土俵に立つことにした。楽天は12月決算なので、新しい会計基準への移行は来期からということになる。

 ネット企業は内需型とみられてきたが、ここへきて海外展開が加速してきた。中国で失敗した楽天は、どこを目指すのか。(敬称略)
(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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