東宝は1月8日、子会社で東証1部上場の東宝不動産を完全子会社化すると発表した。TOB(株式公開買い付け)を実施し、全株取得を目指す。買付代金は166億7700万円。TOB期間は1月9日から2月21日を予定。成立後に東宝不動産は上場廃止となる。
阪急阪神東宝グループは東宝と阪急電鉄・阪神電気鉄道の持ち株会社の阪急阪神ホールディングス(HD)、阪急阪神百貨店を傘下にもつエイチ・ツー・オー(H2O)リテイリングの3社を中核に形成されている。
東宝は東宝不動産の発行済み株式の58.81%を保有し、現在は連結子会社。阪急阪神HD (株式所有割合5.38%)とH2O(同1.52%)の2社は、所有する普通株式に関してTOBに応募する。
東宝は、創業地である東京・日比谷を中心に、日比谷・有楽町・丸の内地区で複数の映画・演劇劇場を持っている。不動産事業では東宝日比谷ビル(日比谷シャンテ)、東京宝塚ビル、有楽町センタービル(有楽町マリオン)などの大型賃貸物件を保有する。
一方、東宝不動産は日比谷に東宝ツインタワービル、丸の内に帝劇ビルなど約60の物件をもつ。帝劇ビルなど築数十年の物件が多い。東宝グループの資金調達力を生かして、建て替えや改修を進める狙いがある。
資産内容のいい不動産関連銘柄の場合は親会社の財務改善に直結することから、旨味は大きいといわれている。東宝による東宝不動産の完全子会社移行は、これに当たる。
親会社が不動産関連の上場子会社を保有している銘柄は、イオンのイオンモール、商船三井のダイビル、住友不動産の住友不動産販売、東急不動産の東急リバブルと東急コミュニティ、太平洋セメントの秩父鉄道、日本電信電話のNTT都市開発、パナソニックのパナホーム、三井不動産の三井ホームなどがある。
親会社が連結子会社を完全子会社にする動きが、ここ数年、目立っている。親子上場の解消である。
東京証券取引所で上場廃止になった銘柄は、2010年(暦年)に68銘柄。このうち、完全子会社化を理由にした上場廃止は37銘柄。上場廃止銘柄の54.4%が、親子上場解消によるものだった。
日立製作所による日立プラントテクノロジー、日立マクセルの完全子会社への移行。JXホールディングスによる新日本石油と新日鉱ホールディングス、三菱マテリアルによる三菱電線工業、キヤノンによるキヤノンファインテック、MKSホールディングスによる日本興亜損害保険とニッセイ同和損害保険などがある。
株式の全株取得を理由とした上場廃止銘柄は16銘柄。日立製作所による日立システムアンドサービス、日立ソフトウェアエンジニアリング、日立情報システムズの全株取得がこれに該当する。株式の100%取得にはMBO(経営陣が参加する買収)も含まれているため、全部が全部、親子上場の廃止ではないが、親子上場の廃止が時代の趨勢だ。
11年は上場廃止52銘柄のうち、完全子会社化は28銘柄。これまた53.8%を占める。パナソニックによる三洋電機とパナソニック電工、トヨタ自動車によるトヨタ車体と関東自動車工業、三井住友トラスト・ホールディングスによる住友信託銀行、みずほフィナンシャルグループによるみずほ信託銀行などがある。株式の全株取得による上場廃止は13銘柄だった。
12年は上場廃止56銘柄のうち完全子会社は21銘柄。全体の37.5%。少し比率が下がった。日産自動車による愛知機械工業、三井住友フィナンシャルグループによるプロミス、新日鐵住金による住友金属工業、日新製鋼ホールディングスによる日新製鋼と日本金属工業、ソニーによるソネットエンタテインメント、ソフトバンクによるイー・アクセスなど注目すべき動きが続いた。
全株取得による上場廃止は23銘柄。フジ・メディア・ホールディングスが子会社を通じてTOBを実施して、サンケイビルの全株を取得した。スーパーのユニーがTOBを実施してコンビニのサークルKサンクスの全株を取得。IHIは石川島建材工業、IHI運搬機械の全株を取得した。いずれも親子上場廃止型だ。
わが国の株式市場で親子上場が広がったのは、親会社の信用で子会社が必要な資金を市場から調達できるほか、親会社は子会社上場に伴う株式の売却益を得られるなどのメリットがあったからだ。
しかし海外投資家は、親会社と子会社の利益相反を問題視した。欧米企業には子会社を上場させるという概念はほとんどない。そもそも、連結支配している子会社に少数持ち分の株主が登場することは好まない。持ち分に応じて配当を払う必要があり、利益の外部流出につながるからだ。
08年秋のリーマン・ショック後の世界同時不況や国際競争の激化に伴い、経営の効率化に向けたグループ再編の動きが広がったことが、親子上場が減った背景にある。子会社であっても重要事項の決定のために株主総会が必要になり、迅速な意思決定ができない弊害が生じた。東証は10年6月、親会社との取引で少数株主が不利にならないよう、必要な情報の開示を子会社に求めるなど規制を強化した。このことが、親子上場解消の動きの背中を押したといえる。
子会社の収益力が親会社を上回ったことで、関係が変化した例もある。子会社のセブン-イレブン・ジャパンは、親会社のイトーヨーカ堂を時価総額で上回ったため、持ち株会社セブン&アイ・ホールディングスの下でグループを再編した。
資本のねじれによる買収リスクを防止するための、親子上場の解消の事例もある。親会社のニッポン放送が子会社のフジテレビジョンを所有していることを目につけ、ライブドアの堀江貴文社長(当時)がニッポン放送とフジテレビを串刺しにする買収に動いたのは記憶に新しい。資本のねじれを解消するために、持ち株会社フジ・メディア・ホールディングスの傘の下に再編された。
親子上場廃止は時代の流れである。しかし、魅力的な子会社の上場廃止は株式市場の縮小の一因になると懸念する声はある。
(文=編集部)