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政権にも睨みが利く実力財界人、三村・新日鐵住金相談役

安倍政権を支える新日鐵相談役が日商次期会頭に…混迷する経団連新会長選び

文=編集部
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(「新日鐵住金 HP」より)
 日本商工会議所の次期会頭に新日鐵住金の三村明夫相談役(72)が決まった。10月末に任期が切れる岡村正会頭(74)=東芝相談役=の後任として、11月の会員総会で正式に決定する。任期は3年で2期6年務めるのが慣例。新日鐵住金から日商会頭が就任するのは、1969年9月~84年5月の永野重雄・新日本製鐵会長(富士製鐵OB)以来となる。

 三村氏は6月末の株主総会で新日鐵住金の取締役を外れる。岡村会頭は昨年秋、新会頭の条件を「若くて気鋭の方」と語った。三村氏は11月になると73歳。決して若くはない。

 岡村会頭は三村氏が新日鐵住金の取締役を退任することについて「(新日鐵住金が)全面支援すると聞いている」。高齢なことには「若さを物理的な年齢では測ってはならない。2期6年でも問題はない」とした。とはいえ、財界の人材の払底ぶりを示す人事といえる。

 日商の会頭は東京商工会議所の会頭を兼務することになっている。東商会頭(イコール日商会頭)は東商の副会頭から選ばれるのが慣例だ。しかし三村氏は日商や東商の副会頭などの要職に就いておらず、その点でも異例ずくめの人事である。

 就任の決め手となったのは、政権にも睨みが利く実力財界人であるという点だろう。三村氏は安倍晋三首相とも親しい。第1次安倍政権では経済のブレーンの役割を果たした「四季の会」のメンバー。08年には麻生太郎政権で経済財政諮問会議の民間議員も務めている。「安倍首相に近い三村日商が発言力を増す」との見方が財界にある。

 新日鐵住金は、前身の新日本製鐵時代に経団連会長や日商会頭を輩出してきた。しかし、今井敬氏が経団連会長(98年5月~02年5月)に就任して以来、経済界のトップを出してこなかった。三村氏は05~08年に経団連副会長を務め、次期経団連会長の有力候補といわれたが財界総理にはなれなかった。産業構造の変化で「鉄は国家なり」という古き良き時代が終焉し、鉄鋼が不況業種になったことと、新日鐵から財界総理が出なくなったことは無関係ではない。

 日本商工会議所は全国の商工会議所の総本山である。商工業者を中心とした中小企業の利益代表だ。中小企業の経営環境は、アベノミクスでさらに厳しくなってきている。高齢な三村氏の舵取りは容易ではない。

 後任選びでは、かつて岡村会頭が「製造業にこだわらない」と発言したことから、三菱商事の小島順彦会長(71)が有力候補に浮上した。だが、「三菱商事は以前から経団連会長獲りを目指しており、“ポスト米倉”の候補が次々と消え、急に展望が開けてきたので、日商から経団連に乗り換えるだろう」(総合商社の最高首脳)とみられていた。もしかすると、小島氏は日商会頭への就任要請(もちろん水面下である)を断ったのかもしれない。

 日商の次期会頭が三村氏に決まり、財界人事の焦点は、来年6月に任期が切れる経団連の米倉弘昌会長(3月31日に76歳)=住友化学会長=の後任を誰にするかに移った。三村氏の日商トップ就任は、経団連会長人事に微妙な影響を与えることになる。安倍政権と太いパイプを持つ三村日商が中小企業問題だけでなく、国の経済政策に発言力を高めることが予想されるからだ。

 そこで経団連は政権との距離を踏まえ、次期会長の選定を進める。80年代以降、経団連会長を出してきた新日本製鐵(稲山嘉寛、斎藤英四郎、今井敬の3氏)、トヨタ自動車(豊田章一郎、奥田碩の2氏)、東京電力(平岩外四氏)は“経団連御三家”と呼ばれた。だが、東電は福島第1原子力発電所事故で圏外に去り、新日鐵住金は日商会頭を務めることになった。そして、今のトヨタには経営者の世代交代で(経団連会長の)適任者がいない。

 こうした状況下、経団連会長の椅子に意欲を燃やしているのが、元祖・経団連企業を自負する東芝である。東芝は70年代まで、石坂泰三氏(56年2月~68年5月)と土光敏夫氏(74年5月~80年5月)という2人の大物を経団連会長に送り出してきた名門だ。石坂氏は、文字通り“財界総理”と呼ばれた。

 80年代以降、経団連会長に縁のなかった東芝が、久々に財界総理の座に近づいたのである。長いこと“ポスト米倉”の最短距離にあるといわれてきたのが東芝会長の西田厚聰氏(69)だ。しかし、西田氏が就任するには、越えなければならない2つのハードルがある。今年5月末の定時総会で西田氏は経団連副会長の任期満了(2期4年)を迎えるため、経団連の別のポストにとどまることが必要だった。もう1つは、経団連会長になるには、現役の会長・社長であることが絶対条件だということ。後で述べるが、この点はクリアした。

 だが、西田氏は経団連副会長を退任後、経団連会長の待機ポストとされる審議員会議長や副議長ポストに就けなかった。「西室さんが副議長に押し込むように、懸命に根回ししていた」(経団連の有力企業首脳)が成功しなかった。元東芝社長・会長、元東京証券取引所会長を務めた西室泰三氏(77)は「東芝が経団連企業の盟主に復活するのが悲願で、自ら経団連会長を狙ったが、それが果たせなかったため、西田氏を押し立てた」(東芝の有力OB)が、別のポストへの残留はかなわなかった。おそらく、米倉会長は西田氏が残ることに「ノー」と言ったのだろう。

 これで、西田氏が悲願の経団連会長の椅子に座る確率は極めて低くなった。ところが、驚異の粘り腰を見せて踏みとどまった。東芝は田中久雄副社長(62)が社長に昇格、佐々木則夫社長(63)が新設する副会長のポストに就く。西田会長は留任した。東芝会長を続投することで、西田氏は経団連の次期会長候補として残ったのである。

 経団連企業の盟主としての復活に懸ける東芝は、西田氏がダメな場合に備えて、次の矢を用意している。今年、経団連副会長に就任する佐々木則夫氏というカードだ。安倍晋三内閣が最優先課題に掲げた経済再生の司令塔となる経済財政諮問会議の民間議員に就任して上げ潮に乗る。63歳と若いことも魅力だ。西田氏は、東芝の会長定年まであと1年。その後は、佐々木氏が代表権を持った会長になるだろうといわれている。経団連の米倉会長の退任時期とピッタリ重なるわけで、佐々木氏が“ポスト米倉”に数歩近づいたとの見方さえある。

 経団連会長を輩出してきた新日鐵住金、トヨタ、東電、それに東芝の4社が経団連の保守本流である。ところが、キヤノンの御手洗冨士夫氏(06年5月~10年5月)、住友化学の米倉弘昌氏(10年5月~)と、2代続けて本流以外から会長が出ている。これまでも商社、銀行、生損保や鉄道から経団連会長は出ていない。三菱商事は小島会長を押し立てて経団連会長獲りに意欲を見せているが、「商社には自分たちの経済団体、日本貿易会があるではないか」(現役の経団連の副会長)と突き放す声がある。これが小島氏を擁立するグループの最大のネックになるかもしれない。

 経団連会長に最短距離にあった東芝の西田氏が何故、消えつつあるのか。答えははっきりしている。

「訥弁の米倉氏は、西田君のようにペラペラしゃべるタイプは好きじゃない。米倉氏がこれ以上、レームダック化しないで、人事権&発言力を維持できるかどうかにかかっている」(別の経団連の元副会長)

 米倉氏に人事権が残っていれば、西田氏が経団連会長の椅子に座ることは絶対にないだろう。人事は、結局、能力より好き嫌いで決まる。“ポスト米倉”の行方は、まだ見えてこない。
(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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