官主導の「再編上場のモデルケース」となったのが、14年3月に東京証券取引所に上場したジャパンディスプレイ(JDI)だ。スマートフォン(スマホ)などに使われる中小型液晶パネルで世界トップの16.2%のシェアを持つ。同社は12年4月、日立製作所、東芝、ソニーの中小型液晶パネル子会社が統合して誕生した。その際、中心的役割を果たしたのが産業革新機構だ。経産省主導で09年に設立された官製ファンドで、革新機構はJDIの設立に当たって2000億円を出資した。
JDIの株式は革新機構と日立などメーカー3社が保有していた。上場に先立ち1億4000万株の公募増資を行い、公開価格は900円に決められた。3月19日、JDIは東証に株式を上場。ところが、初値は公開価格の900円を15%近く下回る769円だった。上場前に900円で買っていた個人投資家は大損した一方で、革新機構は保有する株式の半分近くを売り出し、出資額2000億円の8割に当たる1600億円を回収、売却益は700億円に上った。
JDIは官製ファンドによる産業再編のモデルケースとなるはずだったが、株価は公開価格(900円)を下回ったままで700円台の低空飛行を続けており、官主導の歪みが株価にあぶり出された格好だ。
●動きだす電炉メーカー再編
国際競争力強化のための業界再編は必至だ。鉄鋼業界では高炉メーカー1位の新日本製鐵と住友金属工業の合併により新日鐵住金が誕生。高炉4位の日新製鋼とステンレスメーカーの日本金属工業が経営統合して日新製鋼ホールディングスとなった。大型再編は一段落といっていい。
しかし、電炉メーカーの再編は進んでいない。電炉は鉄スクラップを原料として建設用鋼材を製造する。全国に大規模な製鉄所を展開する高炉に対し、電炉は地場メーカー、40社近くがひしめき合い、かねてから再編の必要性が指摘されてきた。再編が進まない理由としては、電炉再編の第一歩と目された統合計画が頓挫したことが大きい。国内棒鋼シェア1位の共英製鋼と同3位の東京鐵鋼は10年4月に経営統合する計画を進めていたが、中止に追い込まれた。公正取引委員会が棒鋼の中でも溶接が不要なネジ節鉄筋のシェアが8割に達することを問題視し、統合できたとしても事業売却などの厳しい条件が付けられかねないとして両社は統合を断念した。これにより、電炉再編の気運は一気にしぼんでしまった。
しかし、高炉の新日鐵住金の誕生で、再び電炉再編への期待が高まってきた。新日鐵住金系列の電炉再編だ。新日鐵住金の出資比率が高い順に並べると、大阪製鐵が60.6%、共英製鋼が25.8%、合同製鐵が14.9%。経営再建中の中山製鋼所にも16.9%出資している。再編の口火を切るのは、この中で大阪製鐵と共英製鋼の統合との見方が有力だ。鋼材市況の低迷が長引く中、電炉業界の再編は各社の生き残りの必須条件であり、両社の統合を突破口に封印されてきた再編が進むとみられている。