ソニーの平井一夫社長兼CEO(最高経営責任者)は、社長に就任して間もない12年4月12日の経営方針説明会で、「ソニーの復活を象徴するような、世界をあっと言わせるような魅力あるイノベイティブな商品・サービスを市場に投入する」と宣言。それから2年、平井氏が宣言したような新製品はいまだに姿を見せていない。
ソニーは14年3月期の業績見通しについて、すでに2回下方修正している。まず13年10月31日に最終利益を500億円から300億円へ下方修正し、これが2月には1100億円の赤字転落に変わり、さらに今回(5月)、1300億円の赤字へと赤字幅が拡大した。当初の見通しと比較すると実に1800億円も乖離が発生したことになる。3度目の業績見通しの下方修正が発表された直後、株価は10円しか下げなかった(1800円)。これはソニーの業績見通しが株式市場から信用されていないことを物語っている、という見方が市場関係者の間で広がるほど、ソニーの不振は深刻化している。
5月2日の株価を基準にしたソニーの時価総額は1兆8800億円。ピーク時には15兆円を突破していたため、13兆円以上も目減りしたことになる。12年7月には株価は863円まで下げ、過去10年来の記録的な安値となり、時価総額は8800億円と1兆円を大きく下回った。ちなみにプラズマテレビ撤退など構造改革を推進した結果、業績が急回復したパナソニックの時価総額は2兆7400億円と、ソニーに1兆円近い差をつけている。
こうした業績不振を受け平井氏は、「エレクトロニクス事業を再生し、エンターテインメント事業と金融事業をさらに大きくして、ソニー全体の成長に寄与することが私の使命」と語り社長退任の可能性を否定しているが、ソニー幹部OBからは「平井氏は英語は一流だが経営の素人」と早くも退任を求める声も上がっている。
●1兆円目前にまで膨らむ、最終赤字の累計
ソニーは赤字拡大の理由として、「VAIO」ブランドのパソコン事業を7月に日本産業パートナーズに売却することを発表し、VAIOの売れ行きが一段と落ち込んだことを挙げているが、パソコン事業撤退に関連してさらに300億円のリストラ経費を追加した。このほかには、音楽をCDなどに記録するディスク事業で250億円の損失を計上。スマートフォン(スマホ)で音楽や映像をダウンロードする人が増えたことで、海外ディスク工場の稼働率が落ち、工場の資産価値を引き下げたのが損失計上の理由だ。
本業の儲けを示す営業利益は前期比89%減の260億円と、実に従来予想(800億円)の7割減である。最終赤字が1300億円に拡大したことで、リーマンショックによる金融危機が起こった09年3月期以降の最終赤字は、累計で9400億円と1兆円目前までに達した。
ソニーは14年度の業績について当初、「テレビ事業は黒字化。エレクトロニクス部門も黒字」との見通しを示していたが、その達成を信じるアナリストは少なかった。その不信が今回、数字的にも裏付けられる格好となった。
さらに米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスなどがソニーの格付けをジャンク級(投機的)に引き下げ、赤字解消のメドが見えない中、注目を集めているのが、ソニーの大株主とみられる米投資ファンド、サード・ポイントの動向だ。6月末のソニーの株主総会でサード・ポイントは、平井氏の社長退任を含めた厳しい経営責任の追及を行うという観測も流れている。ソニーとしては、しばらく厳しい経営環境が続く。
(文=編集部)