まず、5月14日の記者発表の内容を簡単に見ておこう。主に、経営陣刷新、13年3月期業績、新中計の3つ。
1つ目の経営陣刷新では奥田隆司社長が代表権のない会長に退き、高橋興三副社長が取締役社長に昇格。片山幹雄会長は技術指導などを担当する「フェロー」の肩書を与えられて取締役を退任する。
一方、主力銀行のみずほコーポレート銀行の藤本聡理事と、同じく三菱UFJ銀行出身の橋本仁宏三菱UFJキャピタル社長の2名が、取締役常務執行役員に就任する。
これらの役員人事は、今年6月25日開催予定の定時株主総会と取締役会で正式に決定する。
「置物社長」と揶揄され、目立った成果を残せなかった奥田社長は結局、就任1年余りでの退任となった。
次に、13年3月期の連結最終損益は5453億円の赤字(前期は3760億円の赤字)だった。最終赤字は2期連続。
最後の新中計では、重点施策として掲げたのが、以下の5項目だった。
(1)事業ポートフォリオ再構築
(2)液晶事業の収益性改善
(3)ASEANを最重点地域とした海外事業拡大
(4)全社コスト構造改革による固定費削減
(5)財務体質の改善
これらの施策推進により、16年3月期に連結売上高3兆円、営業利益1500億円、当期純利益800億円の達成を目指すとしている。
同社関係者によると、5項目の重点施策の中で、新中計の数値目標達成のカギになるのが「液晶事業の収益性改善」。
つまりスマホやタブレット向けの中小型液晶パネル事業だ。主力の亀山第2工場(三重県)が独自開発した省エネ性能の高い「IGZO(イグゾー)」を武器に、大口販売先を増やす考えだという。
具体的には、今年3月に同社へ104億円を出資した韓国サムスン電子向けに、タブレットとノートパソコン用のIGZO供給を増やし、工場の安定操業を図る。
高橋次期社長は液晶事業について「事業自体が赤字というより、巨額投資が巨額赤字を生んだ。もう全部自前で投資する必要はない。液晶はテレビやスマホに加え、自動車など新分野で伸びしろがある。今後も当社の中核事業であることに変わりはない」と強調している。だが、「相変わらずの液晶頼みが、同社を窮地に追い込んでいる」との見方も強い。
●資産リストラの先行きにも暗雲
液晶事業は需要変動が大きく、13年3月期業績は営業損益が1389億円の赤字と全社の赤字額の90%強を占めた業績不振の元凶。今期は300億円の黒字と大幅な改善を見込んでいるが、これも計画倒れの可能性が高い。韓国や台湾のライバル勢との競争も激しく、シャープが狙う大口販売先拡大も容易ではない。
しかも、現在の販売の頼みの綱の米アップルのiPhoneは、かつての勢いを失い、「液晶で今後どれだけ稼げるかの見通しは限りなく暗い」(市場関係者)。
自己資本も依然脆弱だ。損失の拡大により、経営の健全性を示す自己資本比率は今年3月末現在で6.0%。昨年12月末の9.6%から3.6ポイントも低下している。製造業で健全とされる20〜30%と比べると、その脆弱性の深刻さがわかる。電機業界担当の証券アナリストは「財務基盤の安定のためには、引き続き1000億円規模の資本増強が不可欠」と言う。