だが、資本増強について大西徹夫取締役専務執行役員は「中計期間中に、あらゆる可能性について検討をする」としか説明できなかった。
同社は昨年8月も財務体質の改善につながる資産リストラ策などを公表したが、実現できたのは旧堺工場の切り離しや、設備投資の削減などにとどまり、工場売却などの資産売却は計画通り進まなかった。
新中計説明の締めくくりで、高橋次期社長は「創業の精神以外は全部変える覚悟で、新生シャープをつくる」と胸を張ったが、前出証券アナリストは「主力2行から計1500億円の追加融資枠確保で、当面の資金繰りの目途はついた。だが肝心の『どうやって稼ぐのか』の具体策が何もない。中計で示した重点施策5項目は、根拠の曖昧さが目立つ」と苦り切っている。
市場関係者の間から「あまり期待していなかったが、ああ、やっぱり」とため息が洩れたゆえんだ。
●悪化止まらないキャッシュッフロー
また、ある業界関係者は「新中計推進は、シャープが独立会社から子会社への道をたどる分岐点」と、不気味な予測をしている。その根拠は、新中計発表で再度明らかになったフリーキャッシュフロー(純現金収支)の悪さだ。
シャープはフリーキャッシュフロー赤字が慢性化している会社。前期も739億円の赤字で3期連続赤字だった。リーマンショック後の5年間の赤字額累計は6010億円の巨額に膨らんでいる。
このため、13年1-3月期も現金確保で苦労している。太陽電池などの売上高を大幅に積み上げ、1-3月期だけで下期の営業黒字(226億円)の9割弱を稼いだが、同期もフリーキャッシュフローはプラスにならなかった。
新中計発表に合わせ、主力銀行2行から合わせて1500億円の追加融資枠を確保したことで「9月に期限を迎える2000億円の新株予約権付社債(転換社債)の償還にはメドをつけた」と、大西専務執行役員は市場の不安を打ち消す。
だが、同社は昨夏、3600億円の協調融資枠を確保した時も同様の説明をしていた。しかし3600億円枠のうちすでに3100億円を使ってしまい、今回の1500億円の追加枠確保が急遽必要になった経緯がある。証券アナリストは「会社の見込み以上に現金流出が激しい」と見ている。
しかも、9月に期限を迎える転換社債の償還でフリーキャッシュフロー問題が解決するわけではない。14年3月に300億円、同9月に1000億円の、いずれも普通社債の償還を控えている。さらにリストラ原資確保も必要になる。
新中計で施した健全そうな化粧顔とは裏腹に、素顔の財務はひび割れ状態。国内外に不採算工場を多数抱え、抜本的な採算改善にはリストラが不可欠。しかし、それを実施すると底が透けて見えている現金が一段と流出する。
同社は資産に厚みのあるパナソニックやソニーと異なり、株式や不動産など売れる資産は少ない。特許などの知財資産を売りたくても「製造特許などは多いが、売り物になる基本特許が少なく、フリーキャッシュフロー問題の歯止めになるほどの収入は期待できない」(証券アナリスト)のが実情だ。
●サムスン、狙いはシャープの複写機事業買収と子会社化?
結局、新中計を進めれば資金繰り悪化が避けられず、「その弱みに付け込んで、サムスンが経営関与を強めるのは必定」と前出の業界関係者は予言する。
韓国サムスン電子は、片山会長の要請に応じる形でシャープに104億円を出資、シャープは今年3月6日にサムスンとの資本・業務提携を発表した経緯がある。これによりサムスンは、一気にシャープの第5位大株主の座に座った。