「元代表のスター選手が起こした事件ですからね。サッカー界に衝撃が走りました。奥には、電話で佐伯に『今から殺しに行くから』などと脅した容疑がかけられていますが、本人は容疑を否定しています。神奈川県警は脅迫のほかに、佐伯に対するDVの容疑も視野に入れているようです」(スポーツ紙記者)
奥容疑者といえば、1990年代後半のジュビロ磐田の黄金期を支え、その後移籍した横浜F・マリノスでも03、04年の連続優勝にも貢献したテクニシャン。もちろん代表歴もあるが、当時は中田英寿(引退)や小野伸二(豪ウェスタン・シドニー・ワンダラーズ)、中村俊輔(横浜F・マリノス)、伊東輝悦(ヴァンフォーレ甲府)ら、同タイプのテクニシャン系の選手がズラリと揃った当時の代表では、なかなか真価を発揮できず、W杯出場は叶わなかった。とはいえ、国際Aマッチ26試合の代表キャップは立派なもの。れっきとしたスター選手だった。
そんな奥容疑者に何が起こったのか。
「少なくとも5〜6年前からDVの被害を受けていたと、佐伯は知人に相談していたそうです。奥は嫉妬深い性格らしく、日頃から佐伯の浮気を疑い、携帯電話を折ったりしたこともあったようです」(同)
現役に未練を持ったままの引退
奥容疑者の妻への虐待が始まったとされる5〜6年前といえば、ちょうど彼が引退した時期に当たる。「奥容疑者の引退は必ずしも本意ではなかったような気がします。そのあたりが影響しているのでは」と、指摘するサッカーライターは、次のように続ける。
「奥容疑者は07年に横浜FCへ移籍するのですが、故障もあり満足なプレーができないままシーズンを終え失意の中、盟友だった元日本代表の久保竜彦が横浜FCを解雇されたことに抗議する格好で現役を引退しました。しかし当時、まだ31歳でしたからね。ケガさえ治せば、まだまだ十分活躍できたはず。一時の勢いで引退してしまったものの、本当は現役に未練があったのでは。そうした未練が、妻へのDVという歪んだ形で現れたのではないでしょうか」
不本意な引退であったためであろうか。華やかだった現役時代と比べると、引退後のキャリアは順風満帆とはいえなかった。現役引退後は横浜FCのサッカースクールのテクニカルアドバイザーや多摩大学目黒高校のサッカー部監督を経て、一昨年に横浜FCの強化部長に就任するも、体調を崩して辞任。指導者に転身したものの、どれも結局は途中で挫折しているのが実情だ。
「最近は、知り合いのお好み焼き屋でアルバイトをしていたといいますからね。現役時代を知る者としては寂しい限りですよ。現役時代の蓄えもあるだろうし、いざとなれば佐伯さんが女優として働けばいいわけですから、すぐに生活に困るということはなかったでしょうが、引退後に就いたJ2クラブのチームスタッフや高校のサッカー部監督では、収入も先細りだったはず。将来への不安や何をやってもうまくいかない現状への焦りのはけ口が、妻に対する暴力だったのでは」(同)
Jリーグが発足して、今年で20年。発足当時アマチュアだった選手たちも今やプロとしてW杯連続5回出場を果たすなど、アジアで最も成功したプロリーグになるまでに発展した。だが、そうした華やかな側面の一方で、Jリーガーの引退後のセカンドキャリアは整備されているとはいい難い。特に奥容疑者のように現役時代が華やかであればあるほど、引退後いったん躓くと負のスパイラルに陥ってしまいがちだ。今回の事件は、そんなJリーガーのセカンドキャリアの難しさを浮き彫りにしたケースだといえるだろう。
(文=編集部)