繁華街・オフィス街との交通距離は遠い
今から30年程前、「株式会社・神戸市」と呼ばれた頃のシンボルが、ポートアイランドだ。そう言われても、にわかには信じ難い。なぜならば、人通りがあまりにもないからだ。
神戸市の繁華街・三宮から、神戸新交通ポートアイランド線に乗ること10分程度で、住宅街であるポートアイランドの「みなとじま駅」に着く。確かに、繁華街でありオフィス街でもある三宮まで近い。三宮への通勤ならば問題ない。だが、大阪への通勤となると、必ずしもアクセスは容易ではない。
ポートアイランドから大阪に出るには、JR・阪急・阪神各社の三宮駅で乗り換えをしなければならない。この乗り換えも、もともとポートアイランド線の乗り入れを踏まえて計画された駅のつくりではないためか、実に手間がかかる。そして三宮駅から大阪(阪急、阪神各社では梅田)に出て、人によっては、ここからさらに地下鉄などに乗り換えて、それぞれの勤務地へと向かう。
つまり、ポートアイランドに住む人のうち大阪に通勤する人は、ポートアイランド線、JR線(もしくは阪急、阪神各線)、そしてさらに地下鉄へと3つの路線を乗り継ぐことになる。ポートアイランドから大阪まで、時間にして早くて40分。移動の諸々を換算すると50分程度となる。これでは電車1本で大阪まで直通で行けるJR須磨、垂水といった場所と、交通時間という点ではほとんど変わらない。
空室率高い賃貸オフィス
六甲アイランドでは、状況はさらに深刻だ。六甲アイランドから六甲アイランド線に乗り、行き着くのはJR住吉駅である。このJR住吉駅には、大阪へ向かう上り線、三宮や元町に向かう下り線に、快速は止まっても、新快速は止まらない。
「ポートアイランドのほうは、JR三宮駅まで出れば新快速が止まるので、大阪へのアクセスはまだいい。しかし、六甲アイランドは、乗換駅のJR住吉駅に新快速は止まらない。地図上では、大阪や三宮までの距離は近くとも、交通距離は意外に遠い。新しい街並みにもかかわらず過疎化が著しいのも、この交通アクセスの悪さに尽きる」(地域住民)
この言葉の通り、過疎化に歯止めがかからない状態だ。六甲アイランド内にある複合施設「神戸ファッションマート」では、近年、オフィス施設の「空き室多数」状態が続いている。
「JR線および阪急、阪神の各線とのアクセスがない六甲アイランドには、オフィス需要そのものがない。こうした立地環境でも不便さを感じない業種・業態は限られている。しかし、そんな業種・業態の企業も、やはりビジネスでの利便性を考えるとJRと主要私鉄とのアクセスがよい立地を優先する」(地元建設業界紙記者)
JR、阪急、阪神の主要鉄道を延伸しない限り、六甲アイランドに人が流れることはない。結果、ますます空室率が高まり、過疎化が進む。
主要鉄道が延伸すれば「人の流れ」は変わる
ポートアイランド、六甲アイランド、この2つの人工島に人も企業も集まらず、過疎化に拍車をかけているのは、ひとえに鉄道計画のずさんさに尽きる。もし、新神戸交通という神戸市独自の路線ではなく、これがJR、もしくは阪急、阪神の主要私鉄の延伸であれば、事情は大きく変わったのではないだろうか。
三宮という繁華街。その近くの海を埋め立てれば、誰か人が住む。企業も集う。三宮とポートアイランドを結ぶ鉄道は、誰もが用いる交通インフラ。神戸市としては、この利権はがっちり押さえたい。そうすると都市計画時、わざわざJRや関西主要私鉄各社に延伸の提案をするよりも、神戸市自前の鉄道を敷きたいと考えたことは容易に想像できよう。ポートアイランド線、六甲アイランド線、どちらも神戸新交通株式会社――神戸市の第3セクターである。
山海を行く――。これが成功したのは、ポートピア81までだろう。それに味をしめて、六甲アイランドも造成したが、人の流れを変えるまでには至らなかった。
ポートアイランドにしても、六甲アイランドにしても、ハコモノさえつくれば人が集まるという驕りから、人の流れを変える基本である「人を運ぶ」という視点が欠けていたためである。ある関西主要私鉄の会社重役は、こう話す。
「まずは神戸新交通株式会社さんを、なんらかの形で引き継ぎ、うちの路線に加える。そして、かなりの調整が必要だが、三宮駅を工事し、ポートアイランドまで乗り換えなしで行けるようにする。並行して流通店、デパートを持って来て、企業も誘致する。これだけでも大きく変わるはず」
あくまでも“個人的意見”としながらも、妙に具体的なシミュレーションがなされていたのが印象的だった。将来、ポートアイランド・六甲アイランドに、主要鉄道の延伸が実現する可能性はあるのだろうか。
(文=秋山謙一郎/ジャーナリスト)