除染作業とは、被災地の民家、道路、田畑、校庭など放射能の汚染地域で、放射能を除く回復作業を行うことだが、この除染作業の経済規模は、福島県内だけで最大約5兆円かかるとの試算がある(産業技術総合研究所調べ)。2013年までに政府は除染経費として1兆1500億円を計上しているから、残りは3兆8500億円。この途方もない費用は東京電力が負担するわけではなく、いずれは利用者が払う電気料として回ってくることになる。来年度の日本の予算規模99兆円に比べても、巨大な数字である。別の言い方をすれば、除染は莫大な雇用吸収力のある産業ともいえる。
除染の仕事は、東京電力からゼネコンが共同して受注する。形式上はそうなのだが、実際の作業はほとんどゼネコンの下請け、孫請けの作業員に回ってくる。ゼネコンは原発の建設で儲け、事故が起きても儲けるというわけだ。ひと頃、除染のために集めた土砂や木の葉などが川に流されている実態が明らかとなり、「放射能汚染を拡大しているようなものだ」と批判が集まったが、除染の実態もこうした請け負いの形態からもたらされたものといえるだろう。
●健康診断、特別教育、細かい注意事項も
そんな除染作業員の労働実態や環境は、どのようなものなのだろうか?
作業員として雇用されると、まず特殊健康診断を受ける。被ばく歴の有無、血液、皮膚の検査などが行われる。この健診は、その後も6カ月に1回受けることになる。また同時に、4時間の講義と1時間30分の実技からなる「特別教育」も行われる。
こうして仕事が始まる。たとえば農地だと、汚染された表土を削り取ったり、水で土壌を撹拌したりする。土を耕して汚染された土壌を土の下に埋め込んでいくわけだが、さらに除染で生じた汚染土壌、植物などの処理、保管といった作業もある。それはもっと高度の技術を持った、専門的技術者の仕事だ。通常、除染作業者として募集される職種には含まれない。
除染作業員の仕事には、放射能と正面から取り組むため、いろいろと注意事項がある。作業中は手袋を外さないこと、汚れた手袋で顔などに触れないこと、直接地面に座らないこと、放射性物質に汚染されたものはポリ袋に入れることなどである。こうして一日の仕事が終わったら汚染検査を受ける。万が一、汚染が認められたら水で洗浄する。
除染作業はなにかと注目を浴びる仕事だから、いろいろとまことしやかな情報も飛び交っている。作業員へ支払われる危険手当「特殊勤務手当」が実際には支払われず「ピンハネ」されているというのもそうだった。発注元である環境省がゼネコンなど元請けへ仕事を出す際、被ばくの危険性や精神的不安に対して特殊勤務手当(放射線量などに応じ3300円~1万円の範囲で4種類)を支給するのだが、それが現場の作業員に支払われていなかったというのだ。ゼネコンの“ピンハネ疑惑”を受け、環境省も放っておくわけにいかず、元請けから提出された賃金台帳などをチェックして指導したこともあった。
●果たして高賃金といえるのか?
ひと頃は高賃金だと騒がれたこともあったが、実際は騒がれるほどの賃金でもない。また、下請けである募集会社や請負会社や作業内容によっても上下がある。上記の手当を加えてもそこそこの金額にはなるが、そもそも危険と紙一重の仕事である。応募資格としては60歳を過ぎてもOKなのだが、この仕事を毎日続けるにはかなりの体力が必須。よほどの自信がないかぎり敬遠したほうがいいだろう。
【例:除染作業員に関するA社の募集要項】
<求人コピー>
「当社は他社様のような高額な給料ではありませんが、安全、安心を心がけ、手抜きのない事業をと心がけております。皆様と復興が出来ればと考えております。作業は軽作業ですが、昨今問題になっている手抜き工事はしない、本当の復興を考えている方からのご応募お待ちしております。尚 求人の問い合わせが多数の為 返事が遅くなる事があります。御了承下さいませ」
<募集条件>
・仕事内容:草刈、表層土壌の撤去、袋詰め等の簡単作業 (避難指示解除準備地区)
・日給:9000円〜1万2000円
・食事:現場により異なる。自炊、2食付き、3食付き
・時間:8:00~17:00
・資格:学歴・年齢不問、未経験者歓迎
・年齢:20歳~64歳
・休日:週休1日。原則25日間勤務
※寮費完全無料 雇用保険:労災保険あり(元請けによる)
履歴書・免許証裏表のコピー(お持ちでない場合は住基カードのコピー)・証明写真3枚
(文=岩崎寿次/ビジネスコラムニスト)