(本間龍/亜紀書房)
原子力発電をめぐっても、電通の影響力は大きい。11年3月11日の東京電力福島第一原子力発電所の事故をきっかけに、産・官・学のいわゆる「原子力ムラ」が長年にわたってメディアに大金をバラまき、原発に反対するような言論を封じ込んでいたその一端が明らかになったが、その背後では電通の暗躍があった。
「なぜメディアが原子力ムラの圧力に萎縮していたか、そのメカニズムを知らなければ、日本はまたいつの間にか連中の思い通りにされてしまう」というのは、『電通と原発報道 巨大広告主と大手広告代理店によるメディア支配のしくみ』(亜紀書房)の著者・本間龍氏。本間氏は電通に次ぐ国内第2位の広告代理店・博報堂に、約18年間勤務していた人物だ。
今回本間氏に、大手広告代理店の知られざる仕掛けについて語ってもらった。
10年度、東電の広告費は269億円でした。東電は関東地方でしか電気を売らないのにもかかわらず、広告費の全国上位ランキングで10位に入っているのです。このように大量に広告出稿したのは、関東地方の人たち、また関東圏以外の原発立地県(福島・新潟)においても、原発の安全性・重要性をアピールするためでした。それどころか、同時に、その広告を掲載するメディアに、原発に対してマイナスイメージを与える報道をさせないためでもあったのです。
東電のメイン担当代理店は電通だ。東京電力、関西電力など一般電気事業者からなり、全国的なメディアへの広告出稿を引き受けていた電気事業連合会(電事連)も担当代理店は電通だった。
電事連加盟10社のマスコミ広告費など普及開発関係費は 866億円(10年)と、同年広告費1位のパナソニック(733億円)をも軽々と抜いてしまう巨額なものでした。つまり電力業界は、マスコミにとって大スポンサーであり、最大のタブーだったのです。また不況になればなるほど、安定的なスポンサーになってくれる電力業界に対し、都合の悪い記事を書こうとは思わなくなっていく。
ドキュメンタリー番組で反原発をテーマにして反原発の知識人を登場させるような番組は、テレビ局内部でも自粛ムードになりますし、その動きを察知した代理店側も、大スポンサーを刺激しないように暗躍を始める。
こうして、反原発の番組はトーンダウンし、制作を担当したディレクターは左遷されてしまうのです。そして、テレビからは「原発はクリーンで安全です」などと詐欺まがいの広告、ニュースだけが量産されるのです。
つまり、電通を中心に「広告」という手段で「原発安全神話」、原発礼賛キャンペーンを打ち出してきた。利潤追求に狂奔した産官学の原発ムラを、側面から支えていた大手広告代理店とマスメディアの関係を、一人でも多くの方に知っていただきたい。
この本を出版する際にも、露骨な広告代理店側の働きかけがあったという。