ところが、これらは「実に迷惑千万な過剰な措置だった」と言うPPS(特定規模電気事業者)関係者が少なくない。PPSとは、企業など大口電力ユーザ向けに発電を行う電気事業者のことであり、ユーザへの送電は東電などの大手の地域電力会社の送電線を借りなければならない。このPPSにしてみれば、「送電可能な電力は十分あったので、計画停電も電力使用制限令も不要だった」というのだ。マスコミが毎日のように「電力不足」や「節電」を煽っていた裏では、いったい何が起こっていたのだろうか。
それを読み解くために、まず日本の電力市場の現状を整理してみよう。1995年から電力事業の規制緩和が実施され、現在では、企業や工場、大規模商業施設などをユーザとする大口電力市場の約6割が自由化されている。また首都圏では11年の夏時点で、10社以上のPPSが電力供給を行っており、同市場で10%近いシェアを持っていた。これらPPSの総発電能力は、「政府が計算した電力不足分15%を補って余りある」(同)ともいわれている。
原発事故により東電の供給力は低下したが、これらPPSの供給力は低下しなかった。それどころか、東電に電力を融通する余力さえあったというのに、マスコミは毎日のように「電力逼迫」を煽る一方、PPSの「電力余裕」は報じなかった。その裏で東電は、自社分もPPS分も一括で送電量を15%カットしていたのだ。カットされたPPSの一社は、「あの肝心な時に、我々は存在感を発揮できなかった」と悔しがる。
そんな声を受けてか、今年に入り発送電分離の議論が高まっている。なぜなら、現在東電が地域独占している送電線を同社から切り離し、第三者が送電線を運営する制度にして、PPSは発電分をすべてユーザのニーズに応じて送ることができる仕組みが可能となるからだ。
では発送電分離を実現すれば、果たしてPPSが主張するように電力不足が避けられるのだろうか? 実際はそんな簡単な話ではないようだ。