株式の公開によって得る資金は300億円前後で、東南アジアを軸とした海外での出店強化やM&A(合併・買収)に充てる考えだ。管理本部内に資本戦略室を設置して株式上場に向けた準備を本格化させた。
レディースのファッションブランド「アース ミュージック&エコロジー(earth music&ecology)」を手掛ける同社は、ここ数年でSPA(specialty store retailer of private label apparel)として急速に頭角を現してきた。
SPAとは、商品の企画から生産、販売までを一社で行う衣料品の小売業のことだ。生産から販売までの一貫体制が敷かれているため、消費者のニーズに即応した商品をすばやく店頭に並べることができる。流通在庫のロスを解消でき、安い価格で商品を消費者に提供できる。
国内のSPAとしては、ユニクロを展開するファーストリテイリングが代表的だ。クロスカンパニーの石川康晴社長がSPAの体制にたどり着いた頃は、お手本になる企業は米国最大の衣料品チェーン・GAPや日本では大手アパレルメーカー・ワールドぐらいしかなかった。
●中期経営計画
石川社長は、株式公開に備えて14年度(14年2月~15年1月)~16年度(16年2月~17年1月)の中期3カ年経営計画を発表した。
中期計画の目玉は、14年秋に日本発のグローバルSPAブランドを立ち上げること。日本と中国で集中的に出店し、15年1月期は国内外で過去最高の200店程度の出店を計画している。現在990店のグループ店舗数を15年1月期末に1195店、17年同月末には1635店に拡大する。これに伴い、17年1月期のグループ売上高は1580億円、経常利益は161億円を見込んでいる。
ファミリー層を対象とした新ブランド「KOE(コエ)」を立ち上げ、9月末に国内1号店を出す。30~40代をターゲットにコートやシャツを中心に950アイテムを投入し、子供服にも挑戦するなど、これまで婦人服を主力としてきたが、幅広い商品ラインナップで収益の拡大を図る。「KOE」の旗艦店をニューヨークとパリにオープンし、欧米市場でも地歩を固め、「KOE」単体で年商100億円を目指す。
13年度(14年1月期)は基幹ブランド「アース ミュージック&エコロジー」が前年比13%増の316億円と好調だった。前衛的なファッションで知られている米国のコレクションブランド「トム・ブラウン」の買収によって、欧米市場という新たなチャネルを手に入れた。加えて、婦人カジュアル衣料のSPA「キャン」を買収して事業規模を拡大。これによりグループの売上高は1006億円となり、初めて1000億円の大台を突破した。
クロスカンパニーは20年前に岡山の1店からスタートして、1000億円のアパレル企業に急成長した。株式上場を計画、第2のユニクロを目指すことになる。
●起業からの歩み
石川社長は1970年12月、岡山市に生まれた。DC(デザイナーズ&キャラクターズ)ブランドの全盛時代だった。小さい頃から服装に興味を持っていて、お年玉やお小遣いはほぼ洋服に使った。
中学2年、14歳の時、お年玉を握りしめてDCブランドのバーゲンに行った。店のスタッフから「中学生でブランドものを買いに来るのは珍しいよね。よっぽど服が好きなんだね。それなら(一層のこと)洋服屋をやったら」と言われ、この一言が起業のきっかけになった。
起業の志は、まったくぶれることはなかった。高校、専門学校時代にアルバイトで起業資金を貯め、卒業後はビジネスを覚えるために紳士服チェーンで働いた。給料から毎月一定額とボーナスを貯金し、300万円の資金ができた。
そして1994年6月、23歳の時、ついに岡山市内にレディースのセレクトショップを開業した。念願の1号店は4坪(13.2平方メートル)だった。翌年にクロスカンパニーを設立し、3店を出すまでになったが在庫が増えて業績が悪化し、ここで方向転換した。
99年にSPAにフルモデルチェンジして、ジーンズショップとして再スタートした。石川社長は自らミシンを踏み、ボタン留めや裁断もやった。夜にデニムを切ったり縫ったりしていたので、よくお客から「お兄さん、顔も青いけど手も青いね。倒れないでくださいね」と言われた。
SPAへの大転換が生き残りのポイントとなり、ジーンズにとどまらず若い女性向けのファッションへと進出していった。
次に手掛けたのが販売チャネルの拡大だ。ファッションビルだけでなく、いち早く駅ビルや郊外型のショッピングセンターに進出した。「失敗する」と見られていたが、石川社長の読みは的中した。
駅ビルもショッピングセンターも飽和状態になると、10年にテレビCMを打つ決断をした。その頃はまだアパレル業界では女性誌に広告を出すのが定番だった。
主力ブランドの「アース ミュージック&エコロジー」のテレビCMに中国、台湾、香港で有名な宮崎あおいを起用した。おっとりした雰囲気の宮崎あおいが大声で歌うミスマッチが強烈なインパクトを与え、CMは評判になり、ブランドの知名度はユニクロに次ぐ全国区になった。
業績への波及は想定を超え、11年1月期の売り上げは410億円となり、CMを打つ前の1.5倍、純利益は42億円で同じく2.6倍に急増した。これで出店攻勢に弾みがつき、アパレルの主戦場であった百貨店や量販店がマイナス成長を続ける中、クロスカンパニーは右肩上がりの急成長を遂げた。