「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数あるジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。
まもなくプロ野球が開幕する。ファンにとっては、それぞれのひいきチームの動向が気になる時期だ。今回は本拠地を移して10年たち、人気球団に成長した北海道日本ハムファイターズの活動を「ヒット商品」に置き換え、主に球団戦略の視点から2回に分けて取り上げてみよう。
まずは以下の数字を見ていただきたい。
(1)30年間で18回と1回
(2)10年間で7回と4回
なんのことかおわかりだろうか。(1)は本拠地を移転する前の東京時代(本拠地は後楽園球場と東京ドーム)のファイターズの成績。(2)は北海道移転後(本拠地は札幌ドーム)の成績で、Aクラス(3位以内)入りの回数とリーグ優勝の回数を示している。昨年は最下位だったとはいえ、移転前に比べて別のチームに生まれ変わったかのようだ。
日本ハムファイターズといえば、いまや「北海道のチーム」というイメージがすっかり定着したが、その前の30年間は東京のチームだった。
10年前の移転を、広報やマーケティングの視点で考えてみよう。
●「改良品」ではなく「新商品」としてスタート
ご存じのように、ファイターズの親会社は食品メーカーの日本ハム。連結売上高1兆円を超える巨大企業で、今期の業績も好調だ。看板ブランドであるソーセージの「シャウエッセン」は食べたことのある人も多いだろう。
こうした大手メーカーは、毎年「新商品」を出す。春と秋の年2回出す会社も多い。一方で「改良品」も出すが、メディアの興味はどうしても新商品に向かう。そのため多くの会社は、改良品よりも全面刷新した新商品として世に送り出したがる傾向がある。
これを2004年のファイターズ移転に当てはめるとどうなるか。
「東京から北海道にチームが移転した」だけなら改良品のイメージとなり、メディアの扱いも小さくなる。そうではなく、新たに「北海道にプロ野球新球団が誕生」とする球団戦略で、チーム名に「北海道」を冠し、ユニホームも一新し、新監督には外国人のトレイ・ヒルマン(現ニューヨークヤンキース・スペシャルアシスタント)を起用した。
同時に地域重視を示すため、地元の名門企業に球団の株式を所有してもらい、地道に道内の自治体にも挨拶回りを続け、興味を喚起した。球団マスコットであるB・Bの背番号212は、移転当時の北海道の市町村数にちなんだものだ。