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吉田潮「だからテレビはやめられない」(3月19日)

キムタクを過剰に引き立てる、テレ朝『宮本武蔵』の接待手腕?実力脇役俳優をコケに

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『宮本武蔵』公式サイト(「テレビ朝日 HP」より)
 主要なテレビ番組はほぼすべて視聴し、「週刊新潮」などに連載を持つライター・イラストレーターの吉田潮氏が、忙しいビジネスパーソンのために、観るべきテレビ番組とその“楽しみ方”をお伝えします。

“接待キャスティング”の行方を見守ろうと、テレビ朝日のスペシャルドラマ『宮本武蔵』(3月15・16日放送)を観た。素晴らしい接待手腕であった。主演を過剰に引き立てるがあまり、実力派の俳優たちをここまでコケにするとは。そもそもの宣伝用写真がどれもこれも修整しすぎて、誰だかわからなくなってしまっているくらい。言いたいことはいっぱいある。でも、見事に引き立て役を演じた俳優たちの労をねぎらいたい。

 まず、松田翔太。吉岡道場の2代目で天才的な剣士だが、遊郭に入りびたりで遊び人に成り下がっている、という役どころ。微妙な京ことばで、なよなよにょろにょろ。本来、彼が持っているはずの鋭さや殺気は、かなりの割合で封印していたようだ。武蔵(木村拓哉)との対決も、しんしんと小雪が降りしきる風のお手軽CG映像で処理。あっけなく殺されてしまう松田。その弟役の青木崇高も、いつもの迫力が3分の1程度に抑圧されていた。というか、そういう風にしか映し出されなかった。すべては主役に花を持たせるために。

 もっとも悲惨な扱いだったのは沢村一樹。長刀やロン毛が似合う、長身痩躯が必須の佐々木小次郎に、沢村は適役だと思った。眼力もあるし、「武蔵といえば小次郎」なのだから、沢村が対極に描かれるのかなと思っていた。ところが……あれ? クライマックスの「巌流島の闘い」のあまりのあっけなさ。そもそも史実自体がハッキリわかっていないというか、誰も真実を知らないから、いろいろと描ける「使い勝手のいいシーン」であるはず。それなのに沢村、木刀でパコーンと殴られて終わり。え? これで終わり? それでいいの? 沢村はテレ朝だと、いつも損な役回りだ。昨年放送された連続テレビドラマ『DOCTORS 最強の名医』(テレビ朝日系)でも、高嶋政伸においしいところ持っていかれっぱなしだったし。無念だが大人の事情である。

 どうやら「一乗寺下り松での吉岡一門との決闘シーン」に全力を注ぎすぎちゃったんだろうなぁ。キムタクが76人斬りするって、気合入れまくりで番宣出まくりだったしねぇ。

●テレ朝の作為的演出?

 確かに、殺陣は見ごたえがあった。武蔵の、キレのある動きと体を存分に生かした殺陣だったと思う。身を低くしてしゃがむローアングルの刀捌きって、年輩の時代劇役者には決してできないもの。全身のバネを使って、刀捌きというよりは肉弾戦の要素もたっぷり。ワイヤーアクションやらスーパースローモーションやらの技術を駆使して、臨場感も倍増。跳びはねて頭上から斬りつけたりして。いや、すごかったと素直に思う。

 ただ、武蔵が絡む2ショットシーンは、なんとなく作為的だったような気がしてならない。華のある風貌の松田や沢村は、距離を置いて撮られ、しかもあっけなく無様にやられる。ところが、香川照之、西田敏行、武田鉄矢、ユースケ・サンタマリアら、いわゆる性格俳優とはしっかり画角に一緒に収まる。明らかにひとつひとつの場面で「花をもたせるのはこっちです!」と言われているような。勝手な勘繰りかもしれないけれど。

 物語の展開もセリフも殺陣も、2夜連続にする価値はあった。ただ、役者陣に対する温度差(出番やカメラアングルその他)が激しすぎた。だからテレビ朝日の「接待」としては大成功である。ただし、視聴者は厳しい。特に時代劇には手厳しい意見を寄せる年寄りも多い。面白ければ第1夜よりも第2夜のほうが視聴率も上がったはず。推して知るべし。
(文=吉田潮/ライター・イラストレーター)

●吉田潮(よしだ・うしお):
ライター・イラストレーター。法政大学卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。「週刊新潮」(新潮社)、「ラブピースクラブ」(ラブピースクラブ)などで連載中。主な著書に『2人で愉しむ新・大人の悦楽』(ナガオカ文庫)、『気持ちいいこと。』(宝島社)、『幸せな離婚』(生活文化出版)など。カラオケの十八番は、りりぃの「私は泣いています」、金井克子の「他人の関係」(淫らなフリつき)など。