そこで03年、前述のように社内に檄を飛ばし、新しい成長事業の育成に舵を切った。それが「技術の棚卸」と呼ばれた2年がかりの事業構造転換だった。そのプロジェクトチームの一員だった同社OBは「やれそうか、やるべきか、やりたいかの3つが棚卸のポイントだった」と、次のように説明する。
最初の「やれそうか」は技術的裏付け。自社固有技術の応用で、新事業分野で競争力のある製品を開発できるかがポイント。これで候補に挙がった新事業をふるいにかけた。次の「やるべきか」は業界トップになれるかの検証。新しい事業分野においてオンリーワンを開発できるか、あるいは競合他社より優れたベストワンを開発できるかを徹底的に検証し、×印の事業を排除していった。最後の「やりたいか」は「会社の思い」。例えば、新事業として参入した医薬品やエイジングケア化粧品の場合は、既存事業の画像診断装置など診断の領域に加え、治療(医薬品)、予防(スキンケア化粧品)の3領域をカバーする「総合ヘルスケアメーカーになりたい」との思いが決め手になった。
こうして新事業と既存事業の相乗効果発揮を狙いに再構成したのが、現在の6事業領域。このうち、ヘルスケア、高機能材料、ドキュメントの3分野を同社は「成長戦略における3本柱」に位置付けている。
●技術の棚卸で発掘したスキンケア化粧品事業
同社が技術の棚卸により発掘した新事業の典型が化粧品事業といえる。それは写真フィルムと化粧品の製造技術の類似性だった。カラー写真フィルムの厚さは約0.2mm。髪の毛の太さとほぼ同じだ。この厚さのさらに10分の1の厚さしかない表面に、写真フィルムの技術が詰まっている。フィルムの表面は、基本的に9層の発色剤を塗り重ねてできている。黄色、赤、青などそれぞれの光に感光する層、それぞれの色を混ざらないようにする中間層、ぼやけた写真にしないためのハレーション防止層などだ。このわずか100分の2mmの表面に、コラーゲンをはじめ約100種類の物質が使われている。多種多様な物質を微粒子単位で混合し、かつフィルム表面に均一に塗り重ねる。写真フィルム製造技術は微粒子制御技術でもある。
一方、スキンケア化粧品の製造技術では、主成分のコラーゲン制御がキーテクノロジーになる。つまり技術的には似た者同士なのだ。
同社開発部門関係者は「技術の棚卸により化粧品事業への参入が決まった時、先発メーカーが大小含めてゴマンといる市場に最後発で割り込むためには、当然オンリーワンを投入しなければ成功しない。ベストワンでは失敗するとの確信があった。そこで着目したのが当社のコラーゲン技術だった」と、次のように説明する。
写真フィルムに用いるコラーゲンには、長期間安定的な品質を保つ性能、現像時に水分を保持する性能、経年劣化や衝撃による型崩れを起こさず、しかも弾力性を保持する性能など、いくつも機能性が必要になる。これらの機能性を実現するため、同社は分子構造を変えるなどコラーゲンの超微粒子化技術も磨いてきた。同社にはコラーゲン技術の膨大な蓄積があり、さまざまな種類のコラーゲンを製造する固有技術があったのだ。