この応用で開発したのが、スキンケア化粧品のアスタリフトだ。この商品は、大中小3種類の粒子と機能が異なるコラーゲンを配合しているのが特徴。粒子が大きければ、肌の奥まで有効成分は浸透しない。だが粒子が小さければ、肌の奥まで成分が浸透する。
化粧品業界関係者は「スキンケア化粧品は一様にコラーゲン配合を謳っている。だが、コラーゲンの大半が肌の奥まで浸透することはなく、肌の表面を潤すだけ。粒子がミクロンレベルだからだ。しかし、アスタリフトの場合、ミクロンからナノレベルまで異なる粒子のコラーゲンを配合しているので、一部は肌の表面を潤し、一部は肌の奥まで潤してくれる。ある意味で画期的な化粧品だ」と評価している。
●ヘルスケア事業で1兆円メーカーへ
アスタリフトの新発売時の販売チャネルは、同社通販サイトと東京・銀座、六本木の直営店2店のみという心細さだった。だが、松田聖子と小泉今日子を起用したテレビCMを08年から開始すると、指名買いする消費者増の影響で一般取扱店が急激に増加し、13年度中に全国7000店を超えた。
また、13年3月1日からは美白スキンケア化粧品「アスタリフトホワイト」も発売するなど、品揃えの強化に努めている。富士フイルム関係者は「主力のアスタリフトだけで、11年度中に売上高が100億円を超えた。18年度中に、化粧品と健康食品で1000億円の売上を目指す」と意気軒高だ。
同社の写真フィルム事業がピークだった00年度は、写真フィルム関連のイメージング事業が売上高全体の54%、医療機器関連・電子材料などのインフォメーション事業が同46%を占める2本柱の事業構成だった。
それが直近の13年度ではイメージングソリューション部門の売上高が全体の15.3%、インフォメーションソリューション部門(医薬・化粧品、医療関連、高機能材料など)が同38.3%、事業子会社の富士ゼロックスが担うドキュメントソリューションが同46.4%を占める3本柱の事業構成に大きく変化している。
この大胆な事業構造転換の中で、古森氏が「これからの成長事業」として期待しているのが、診断(画像診断機器)、治療(医薬品)、予防(化粧品、サプリメント)のトライアングルで構成するヘルスケア事業だ。13年度の売上高実績は約3700億円と推定されているが、これを18年度には1兆円まで拡大する目標を掲げている。
富士フイルムは自社の強みを徹底的に検証し、用意周到なオンリーワン・ベストワン商品戦略で事業構造転換に邁進。これまで着実に成功を重ねてきている同社が、今後どのような新たな変貌を遂げるのかが注目される。
(文=福井晋/フリーライター)