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闘うジャーナリスト・佐々木奎一がゆく! ワーキングクラスの被抑圧者たち 第13回

リコー、社員“島流し”訴訟で敗訴、退職強要の実態露呈~大企業の追い出し部屋に一石

文=佐々木奎一/ジャーナリスト

リコー、社員“島流し”訴訟で敗訴、退職強要の実態露呈~大企業の追い出し部屋に一石の画像1リコー本社(「Wikipedia」より/user:Kure)
 ニュースサイト「マイニュースジャパン」を中心に、企業のパワハラ問題や労働争議を追いかけ、常に弱者の立場に立った取材を続けるジャーナリストの佐々木奎一。独自のルートで取材した、企業裁判の渦中にある人々の声を世間に届ける!

 リコーの“島流し訴訟”をご存じだろうか。この事件は2011年5月、リコーがグループ全体で従業員1万人の削減を発表したことに端を発する。

 その直後、「人事に関する面談」と称して40代後半~50代の特定の社員を呼び出し、執拗に退職を迫った。拒絶する社員を「子会社の物流会社の倉庫や本社工場に配転、出向させる」と脅し、計4度にわたる退職強要を断った社員は、実際に倉庫や工場の現場に飛ばされた。

 こうして“島流し”の憂き目に遭った社員のうち、A氏とB氏(ともに男性、仮名)が、物流会社リコーロジスティクスへの出向の無効や、出向による身体的、精神的苦痛に対する慰謝料として各220万円をリコーに求め、12年6月8日、東京地裁に提訴した。

 その後、審議を経て昨年11月12日、ついに一審判決の日を迎えた。判決開始の10分前に法廷に入ったところ、傍聴席全16席のうち半分は報道席となっていた。法廷内の報道席は記者クラブ限定の席である。すでに記者クラブメディアは4、5人来ており、テレビカメラも1台入っていた。その後、裁判長席に向かって右手の被告リコー側の席に、30代の男性弁護士が3人着席した。左手の原告側には、男女各3人の弁護士が座った。

原告勝訴、出向は無効

 午後1時10分となり、東京民事11部の篠原絵理裁判長が入廷した。その後、2分間のテレビカメラの撮影時間を経て、篠原裁判長が判決主文を読み上げた。

「原告らが訴外リコーロジスティクス株式会社に出向して、同社において勤務する労働契約上の義務が存在しないことを確認する。原告らのその余の請求をいずれも棄却する」

 慰謝料こそ認められなかったものの、出向無効を言い渡す、原告の全面勝訴判決だ。

 判決文には、こう書いてある。

「リコーロジスティクスにおける作業は立ち仕事や単純作業が中心であり、原告ら出向者には個人の机もパソコンも支給されていない。(略)それまで一貫してデスクワークに従事してきた原告らのキャリアや年齢に配慮した異動とはいい難く、原告らにとって、身体的にも精神的にも負担が大きい業務であることが推察される。

 (略)原告らと同様に余剰人員として人選され、本件希望退職への応募を断った者(原告らを含め152人)は、全員が出向対象とされ、リコーロジスティクスを含む生産又は物流の現場への出向を命じられたこと等の事実に鑑みれば、本件出向命令は、退職勧奨を断った原告らが翻意し、自主退職に踏み切ることを期待して行われたものであって、事業内製化はいわば結果にすぎないとみるのが相当である。
 
 以上に鑑みれば、本件出向命令は、事業内製化による固定費の削減を目的とするものとはいい難く、人選の合理性(対象人数、人選基準、人選目的等)を認めることもできない。したがって、原告らの人選基準の一つとされた人事評価の是非を検討するまでもなく、本件出向命令は、人事権の濫用で無効というほかない。この点に関する被告の主張は採用できない」

 上記の内容の判決要旨を裁判長が読み上げた後、裁判は閉廷した。その途端、リコー側の弁護士たちは、黙り込み、足早に去って行ったのとは対照的に、原告側は嬉々とした表情だった。法廷の外には組合員などが20人ほどいた。傍聴席に入りきらずに外でかたずをのんで見守っていたのだ。

キャリアに見合わない異動の無効性

 その後、午後2時から厚労省の記者クラブで原告団が会見を開いた。

 会見で特に印象的だったのは、原告のA氏だった。技術開発者であるA氏は、これまでリコーで100件以上の登録特許を取得した者に与えられるパテントマスター賞を受賞、また、皇族からお言葉を受け、内閣総理大臣、文部科学大臣、経済産業大臣などが出席する中で、公益社団法人発明協会より全国発明表彰を受賞する栄誉に浴したこともある。

 さらに社内には、優秀な社員としてその名を永遠にたたえるための金色のプレートに、A氏の名前が刻まれている。そのA氏が、ある日突然、物流倉庫に飛ばされ、人材派遣会社の日雇いの若者たちに交じって、量販店へ送る製品を段ボールに梱包したり、真冬の寒い中、重い商品を持ち運ぶ、といった畑違いの肉体労働に従事するようになってしまった。

 そんなA氏は、今回の勝訴判決を受けて、こう語った。「創業精神である『三愛精神』(人を愛し、国を愛し、勤めを愛す)をモットーとする、人間を尊重する会社だったので、今回の判決の結果を真摯に受け止めて、控訴しないで我々を元の技術者としてのキャリアを生かせる職場に戻していただきたい、と切に願っています」

 ほかに会見では、原告の所属する東京管理職ユニオンの鈴木剛書記長が、「いま、他の大手企業の40~50代の会社員からも、似たような追い出し部屋に飛ばされたという相談がたくさんきている。特に(08年の)リーマンショック以降は、賃金を下げないで、『あなたのための出向、配転』といって追い出すかたちが目立って増えた。団体交渉ではリコー側は『一円も給料下げていないじゃないですか。解雇されるよりマシでしょ。働けるんですから』と言っていた。パナソニックなど名だたる企業が、給料は下げていないが、『あなたの仕事は、あなたの就職先を探すことだ』などと、判で押したように同じスキームで退職を強要している」と指摘した。

 また、今回の判決は出向の無効だったが、配転についても同じ枠組みであると鈴木氏は指摘し、「多くの人事担当者は、会社側が自由に社員を配転させることができると思っている。だが、そうではない。今回の判決により、キャリアに見合っていない追い出し部屋への異動は許されない、と司法は断じている」と語った。

 鈴木氏の言うように、今回の判決が横行する追い出し部屋の歯止めになることを期待して、今後の動向に注目したい。
(文=佐々木奎一/ジャーナリスト)

佐々木奎一/ジャーナリスト

佐々木奎一/ジャーナリスト

「My News Japan」を中心に、「別冊宝島」や「SAPIO」「週刊ポスト」などで執筆するジャーナリスト。企業のパワハラや不当解雇などの労働問題を中心に、政治家の利権や原発問題に絡むメディアの問題なども取材をする。これまでに、「キユーピー」のパワハラ問題の追及や大企業の障害者雇用に関する問題提起、バンダイナムコの社員うつ病問題などを追及して話題となっている。

Twitter:@journalist_ssk

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