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庄や過労死裁判、「残業100時間は一般的」と主張の会社、長時間残業しないと給料減

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庄や過労死裁判、「残業100時間は一般的」と主張の会社、長時間残業しないと給料減の画像1大庄本社

 従業員3000人超、東証一部上場企業で起きた過労死事件の裁判で今年9月、当該企業の役員個人に賠償責任を認めた判決が確定した。過労死を生み出す制度をつくり、蔓延する長時間残業を放置してきたことが理由だ。遺族側代理人を務めた松丸正弁護士は、「社内制度が腐っていることを立証できた。腐らせた責任は役員個人にある」と述べる。遺族側はどのような立証で役員の個人責任を認めさせたのか。裁判資料と松丸弁護士に伺った話を整理した。

●大企業役員の個人責任が認められた初のケース

 この裁判は、居酒屋チェーン「日本海庄や」を運営する大庄の新入社員だった吹上元康さん(当時24歳)が、入社5カ月目の2007年8月、就寝中に急性心不全を起こして過労死した事件の損害賠償請求訴訟。大庄は、同社のウェブサイトによれば、全国に直営店649店舗(11年8月末)を展開する従業員数3176名(同)の東証一部上場企業だ。

 遺族は、会社だけではなく、平辰(たいら・たつ)社長、水野正嗣管理本部長、石村公一店舗本部長、林田泰徳第一支社長の役員4人にも個人責任があると訴えていた。地裁、高裁とも遺族の訴えを認め、会社と役員に計約7860万円の支払いを命じたが、会社側が最高裁に上告していた。その最高裁が会社側の上告を退けた。

 松丸弁護士によれば、過労死の損害賠償をめぐる裁判で、大企業の役員の個人責任が認められた初のケースだという。

●初任給に月80時間分の残業代を組み込む

 高裁判決によれば、当時、同社ウェブサイトの新卒採用情報には、初任給19万4000円と記載され、就職情報サイトでも同様だった。

 ところが、元康さんが入社してみると、月給は19万4500円で採用情報より500円多かったが、その内訳は、基本給12万3200円+役割給7万1300円だと説明された。役割給が80時間分の残業代のことだったことも判明した。

 月80時間という残業時間は、厚生労働省の過労死認定基準と等しい。しかも、大庄の賃金体系は、1カ月の残業が80時間に満たないときは、役割給から控除される仕組みになっていた。残業時間が過労死基準に達しない場合、入社前に初任給として提示されていた「本来もらえるはずの金額」がもらえないわけだ。裁判所も、「社員の心理としては、当初予定した給与を得ようとするのが通常」と認めている。

 ちなみに、基本給12万3200円は、研修で示された月173時間労働で時給計算すると、当時の大阪府の最低賃金と同額だ。

●「残業100時間は一般的」と反論

 会社側は、こういった長時間労働をまったく意に介していなかったようだ。

 例えば大庄は、残業時間の上限を定める労使協定で、1年のうち6カ月は月100時間の残業を可能としていた。そして、同業他社の労使協定の一覧を作成して裁判所に提出し、「外食産業界においては(略)1カ月100時間とすることは、むしろ一般的」と反論した。

 さらに同社は裁判で、労働時間の設定が過労死基準に縛られることは「取締役にとっては経営判断の放棄であり、むしろ会社に対する善管注意義務の懈怠とさえなりうる」「[経営]判断の合理性と裁量の範囲は、その会社が属する業界の経営において通常求められる内容と程度が基準となるべき」とも主張していた。

 松丸弁護士は言う。

 「会社は、この程度の労働時間は問題ないという認識です。同業他社も自分たちと同じかそれ以上に長時間労働をしているし、そのくらい働かないと競争に勝てないという考えです。過労死を生み出した賃金体系と労使協定でも、合理的な経営判断だと考えている」

 だから会社側は、元康さんが過労死した石山駅店ですら、「大庄の他の店舗と比べて特に忙しい店舗ではなく、平均的な忙しさの店舗で、社員の負担も平均的な店舗だった」と主張していた。そして、この「平均的な忙しさ」というのが、社員みんなが月300時間働く状況だった。このことは、会社側が自ら提出した勤務時間の資料を基に、遺族側が立証。裁判所も、諸事情の積み重ねから「他店舗においても同様な労働環境であったものと推認される」と判断した。

●役員の個人責任が認められたポイントは?

 これらの状況から高裁は、「全社的な(略)長時間労働について(略)取締役らは認識していたか、極めて容易に認識できた」にもかかわらず、問題を放置したのは役員の「悪意または重大な過失」で「任務懈怠」があったのは明らかであり、その結果生じた元康さんの死亡に対して、役員の賠償責任について定めた会社法429条1項に基づき、役員は個人として責任を負うと認定した。

 役員の個人責任が認められたポイントは、社内制度の必然的な結果として全社的に常に長時間労働だったことを、会社側が提出した資料から立証できたことだ。

BusinessJournal編集部

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