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「年俸制だから残業代は支払わなくてもいい」にダマされていませんか?

サービス残業の元凶!年俸制・裁量労働制に残業代は込みのウソ

文=寺尾淳/フィナンシャルプランナー
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サービス残業の元凶!年俸制・裁量労働制に残業代は込みのウソの画像1『コワ〜いブラック企業の話』(宝島社/別冊宝島編集部)
「ブラック企業」と一言で言っても、

 「死ぬほど働かせる長時間労働」
 「働きにまったく見合わない、不当に安い給料」
 「上司の業務命令は無理難題ばかり」
 「非人間的な切り捨て人事」
 「『1日後輩は虫ケラ同然』のような“体育会系”社風」
 「同僚の間の殺伐とした人間関係」

など実態はさまざまで、たいていは複数の原因がからみあって「早期退職者が多い」という結果を招いている。

 例えば、今まで給料が安いのはまだ我慢できたが、新しい上司の苛酷な仕打ちやサービス残業の強制で、自分の中で「ここまでが限界」という「しきい値」を超えて退職を決意した、ということはあるだろう。

 原因の中には、経営者が確信犯的にやっていて、その考えを改めさせない限り絶対に直らないケースとか、長年にわたって受け継がれ会社に染みついた「負の伝統」が犠牲者を生んでいるケースもある。また、幹部候補生の定着率が悪い会社、教育研修がほとんど機能していない会社、組織や店舗網が急拡大した会社、IT系などで若手しかいない新興企業、本社の余剰人員の押しつけ人事が横行する大企業の子会社などで、本来なら管理職につかせるのを避けるべき人物なのに管理職に起用せざるを得なかったために起きた悲劇もある。それらは言ってみれば、ブラック企業になるべくしてなったブラック企業である。

まともな企業が、いつの間にかブラックに…

 だが、現在ブラック企業とされている会社の中には「以前はまともだった」というところがけっこうある。

 例えば、本業が順調で労働環境はそんなに悪くなかったのが、2008年秋のリーマンショックをきっかけに、業績が急降下した会社である。当時、「需要の消失」とまでいわれた売上の激減にあせった経営者は、事業の多角化、組織の再編、経費の切り詰めなどさまざまな対策に乗り出すが、その結果はすぐには出ない。だから、受注できるなら納期や金額などの条件がどんなに悪い仕事でも二つ返事で引き受けた。そうやって、不景気でもけっこう忙しいのに会社は儲からないという「利益なき繁忙」にはまったツケが、「忙しい→サービス残業」「儲からない→安月給」と形を変えて、社員にしわ寄せされていく。

口コミサイトでうさばらし

 やがてこの会社は、櫛の歯が欠けるように社員がやめていき、口コミサイトで「いい会社だったのにもう夢も希望もない」「社長のAが諸悪の根源だ」などと匿名で罵詈雑言を書きなぐられて、ブラック企業として警戒される存在になっていくのである。おそらく経営者のA氏は、「ああしなければ、会社はつぶれていた」と開き直り、「俺の気持ちが全然わからない人間にネット上であることないこと好き勝手に書かれて、ブラック企業にされた」と憤るだろう。

 だが、社員にサービス残業と安月給を強いてダークサイド(暗黒面)に墜ちなくても、リーマンショック後の危機を立派に乗り切った企業はいくらでもある。こんな会社は、なるべくしてなったのではなく、道を誤ってブラック企業になってしまったと言える。

 道を誤っても、安月給だけならまだ情状酌量の余地はある。それがよほどひどくなければ、収入が少なければ少ないなりにやりくりができるからだ。深夜や早朝にこっそりアルバイトをして副収入を得ることもできる。

 より罪深いのは、社員を会社に縛りつけて時間を拘束し、金銭的な見返りを与えないサービス残業のほうだ。社員の生活時間を奪い、副収入の道を閉ざし、疲れさせて睡眠時間を奪って、その身体に負担をかける。しかも、残業代のコストを考慮して切り上げるという歯止めが存在しないから、残業時間がどんどん長くなっても会社は平気だ。

 社員にしてみれば、「こんな給料ではやっていけない」よりも「このままでは身体をこわす」ほうが悩みはより深刻で、退職の動機としてはより強いはずだ。もし身体をこわしてしまったら転職もままならなくなる。「給料は安くても我慢するが、サービス残業は勘弁してくれ」と思っている人は、その逆の数十倍は存在するのではないだろうか。

「ウソつきは泥棒の始まり」ということわざがあるが、「サービス残業はブラック企業の始まり」と、あえて言わせてもらおう。

年俸制、裁量労働制、みなし労働時間制はサービス残業を正当化しない

 世の中にブラック企業がもっと増殖してほしいと思っている人は、おそらく誰もいないだろう。親族や知人やその子弟が間違ってそんな会社に入り、苦しんだ末にやめて社会人生活の貴重な時間をムダにする姿など見たくないはずだ。サービス残業をさせる会社はブラック企業予備軍だと考えると、まずはサービス残業から退治して悪の根源を元から絶たなければならない。

 残業代の支払いは法律で定められた会社の義務であり、社員の権利でもある。法定労働時間(1日8時間または週40時間)を超える時間外や休日に労働をさせたら、割増賃金を「支払わなければならない」と、労働基準法37条は会社に義務づけている。深夜労働をさせたら、さらに上積みになる。その割増率は政令で、時間外労働は25%以上、休日労働は35%以上、深夜労働は25%以上と決められている。2010年に時間外労働が月60時間を超えた場合、超えた分の時間外の割増率を50%以上とする規定が追加されたことを、どれぐらいの数の人がご存知だろうか。

 ところが、労働基準法よりも後にできた3つの制度について「この規定の例外になる」と思い込んでいる人が経営者にも社員にもたくさんいて、誤解とサービス残業を生んでいる。それは「年俸制」「裁量労働制」「みなし労働時間制」である。

年俸制だと、残業代は支払われないのか?

 年俸制を導入しても、法定労働時間を超えたら残業代を支払わなければならない。労働基準法の規定はそのまま適用される。会社が支払わなかったらそれはサービス残業で、法律に違反する。罰則は6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金だ。

 会社が「年俸制だから残業代は支払わなくてもいい」と言い訳するのはおそらく、経営者の会合か何かで「残業代なんか一銭も払っていませんよ」といった年俸制導入企業の話を鵜呑みにしたからだろう。

 だが、そこには大事なことが抜け落ちている。残業代を一銭も支払わないようにするには、会社とその社員の間で「月間○時間の時間外手当(年間○時間の時間外手当)は年俸額に含まれる」という明確な合意を取り交わして文書にしておき、なおかつ実際の時間外労働がその○時間以内に収まった場合に限られる。それを超えたら、超えた分の残業代は払わなければならない。

 ましてや「年俸制・年何百万円支給」というだけの約束なら、残業代は年俸に含まれず、法定労働時間を超えた分は残業代を全額、年俸分とは別に払わなければならない。もし、まだ年俸制ではないのに「もうすぐ年俸制にするから」と言ってサービス残業をさせていたら、よりいっそう悪質だ。後で残業代を年俸に含めると合意しても、それをすでに支払い済みの賃金にさかのぼって適用することはできない。
(文=寺尾淳/フィナンシャルプランナー)

※後編へ続く

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