新潟県の十日町市と津南町の越後妻有(えちごつまり)地域を舞台に、2000年から3年ごとに行われている「大地の芸術祭」。第6回である「越後妻有アートトリエンナーレ2015」が、7月26日から9月13日まで開催されている。香川県の直島町を中心とした「瀬戸内国際芸術祭」とは姉妹プロジェクトで、「西の瀬戸内、東の越後妻有」ともいわれている。
同芸術祭は、東京23区とほぼ同じ広大な地域に300以上の現代アートが点在するというものだ。現代アートのイベントとしては世界最大級で、今や海外の有名アーティストに出展を要請しても、断られることはないという。
今回、同芸術祭を立ち上げたアートフロントギャラリーの前田礼氏をガイド役に、3年ぶりに見学してきた。筆者はアートについては門外漢だが、ビジネスパーソンの視点から「なぜ、この芸術祭が成功しているのか」について考えてみたい。
こうした前衛的なイベントを開催するに当たり、保守的な地方の農家をどのように巻き込んでいったのか。また、これは同行した広告代理店の知人も同意していたが、これだけの大規模イベントであれば、費用は開催期間中だけで10億円かかるといっても驚かない。しかし、同芸術祭は準備期間を含めた3年間を6億円で運営している。なぜ、そういったことが可能なのだろうか。
さらに、多くの第三セクター方式のテーマパークが失敗しているように、商業施設の来場者は初年度が一番多く、年々減っていくものだ。しかし、同芸術祭の来場者は第1回の約16万人から毎回増え、12年の第5回では約49万人を数えている。
現場で見てきた感触と、前田氏の説明および同芸術祭の総合ディレクターでアートフロントギャラリー代表の北川フラム氏の著書『ひらく美術』(ちくま新書)を元に考えてみたい。
立ち上げの苦労
1995年にこのプロジェクトの準備が始まった頃は、住民から「爆発だ! などといっている前衛芸術には付き合っていられない」と、まったく受け入れられなかった。舞台となる6市町村(当時)すべてが反対するので、99年開催の予定を1年遅らせたほどだ。
また、当時はバブル崩壊後で日本中がお金のない状態で、資金的にも苦しかった。当時、新潟県の財政担当だった知人によると、とにかく県にお金がなく、国が費用の大半を負担する事業であっても、県の予算不足で断るような状況だったという。ありとあらゆる事業の予算を削っていたため、このプロジェクトに予算をつけることに抗議されることもあったようだ。