絵本作家・田島征三氏の「絵本と木の実の美術館」は、廃校となった校舎を丸ごと使い、実在した在校生であるユウキ、ケンタ、ユカの3人を模したオブジェクトなどが飾られている。空間を最大限に利用した絵本のような世界を展開しており、子供連れはもちろん、大人だけでも楽しめる大人気のスポットだ。ここでは、地元の人が参加するさまざまなイベントも行われている。
以上の3作品に共通しているのは、アーティストがその土地のことを真剣に考え、一所懸命に作業する姿にほだされ、地元の人が積極的に作品に参加するようになって成功しているということだ。そして、それがまた地元の人を元気にするという好循環が起きている。
この3作品は棚田など里山の自然、空き家、廃校の校舎を舞台にしているが、これらは同芸術祭の他の作品でも多く使われている。初期のこの3作品が、モデルケースとなったわけだ。地元の人にとって、すべてマイナスの要素と思われていたものが、アートによってプラスに転化したということになる。
話はそれるが、越後妻有の関係者に言わせると、「今、空き家対策や廃校の利活用などがニュースになっているが、自分たちは15年も前からやってきたので、何をいまさらという感じがする」とのことである。地方の過疎の地域は、以前から少子化と高齢化に悩んできた。今は日本全体が地方の問題を後追いしているような状況ともいえる。
では、同芸術祭が成功している具体的な原因について考えてみよう。
徹底して現地の土地と暮らす人に寄り添う
都会から来た者の目には、越後妻有の棚田と自然は息を呑むほど美しく映る。その強烈な存在感に負けてしまう作品もあるぐらいだ。その地で成功できるのは、カバコフ氏の「棚田」のように、日本の農業が置かれている状況まで理解した上で、そこで耕作する人と心を通わせ、土地を生かすことのできる作品だ。
同行した農家の方は、越後妻有の田畑を見て「実に手入れが行き届いていて、美しい」と驚いていた。ほかの過疎地では手が足りないために、畔が崩れたり、ごみが落ちたりしていて、もっと荒れている。同芸術祭の場合は、多くの来場者に見られることになるので、特に注意して地元の人が手入れをしているという事情もあるだろう。もともと美しい里山が、アートの影響でさらに美しくなるという好循環が起こっている。