7月26日、日本経済新聞社は2014年の「主要商品・サービスシェア調査」(対象100品目)を発表した。例えば衣料用合成洗剤の分野は、以下の結果となった。
・1位:花王(38.4%、対前年比0.5%増)
・2位:ライオン(29.8%、同0.6%減)
・3位:プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(26.4%、同0.4%増)
この順位はここ数年変わらないが、今年は2位ライオンとの逆転劇が予想されるほどのP&Gの急追ぶりである。そうなれば、花王としては背中に世界の巨人、P&Gの足音を聞くことになる。ちなみに同調査で、シャンプー・リンス分野では、1位:花王、2位:P&G、3位:ユニリーバ・ジャパンとなっている。
花王の足元の業績は悪くはない。14年12月期の売上高は1兆4017億円(対前年比6.6%増)、経常利益は1388億円(同8.4%増)となった。P&Gジャパンは非上場のため、数字を公表していない。
P&Gと花王の大きな差
石鹸やヘアケア商品に代表されるトイレタリーの市場において注目されるのは、世界市場に展開する2社の違いである。
P&G米国本社の世界売上高は、830億ドル(15年6月期)もある。1ドル120円で換算すると9兆9600億円に上り、16年同期は10兆円を越える勢いだ。花王とは一ケタ違う企業なのだ。
花王は売上高の28.9%、4000億円強を海外で売り上げている(14年12月期)。05年3月期の海外売上高比率は26.6%だったので、海外比率はほとんど伸びていない。花王は国内重視の企業といってよいだろう。
一方、P&G米国本社は売上高の61%、円換算で実に6兆円超を北米以外の世界中180カ国以上が占める(15年6月期)。花王の年間売上高の4倍をも北米以外で稼いでいることになる。
P&G米国本社の年次報告書によると、05年期の「developing countries(発展途上国)」での売上高は32%と、割合では現在の花王の海外比率と同じくらいだった。その割合が14年期には61%(北米以外)に倍増している。金額でいえば、9年間で約4兆円も北米以外のビジネスを増加させたのだ。この10年ほどの間に、花王は完全に海外市場をP&Gに明け渡してしまった。
花王に「できない」はずはない
P&Gは1970年代に合弁で日本進出を果たし、06年にP&Gジャパンとなった。「世界のP&G」が進出した主要国のうちシェア1位を取れない数少ない市場が日本である。その要因は、強力な競合相手である花王の存在だった。
花王は日本を代表するBtoCの企業であり、トイレタリー市場における製品力や開発力にはP&Gも一目置くほどである。つまり、製造業として極めて優秀な企業だ。加えて、パッケージ・グッズのマーケティングに関しては、日本を代表する企業として名望をほしいままにしてきた。企業規模や財務の点でも申し分のない一流企業だ。
では、その花王がなぜ世界市場ではP&Gの後塵を拝しているのか。
それは「やる気がなかったから」ということに尽きる。P&Gと同様に日用品である化粧品のメーカー、資生堂の海外売上高比率は55%に達している(15年3月期)。
筆者は7月末にスペインを周遊した際、「世界で一番美しい村」といわれるモンテフォリオを訪れた。寒村の裏道に車が入るなり、この村唯一の大看板に圧倒された。「SUZUKI」のロゴが大きく眼に入ってきたのだ。
スズキをはじめとする多くの日本企業にできた、自社製品を世界中にあまねく供給するということが、なぜ花王にできないのか。それは、その覚悟が花王になかったとしか考えられない。他業界の一流企業が持っているのと同等、あるいはそれ以上に強大な経営資源を有しているのが花王だからである。
花王の歴代社長には、マーケティングの成功者、名経営者として讃えられている人も複数いる。しかし筆者には、せっかく経営資源を有しているのに世界へ出て行こうとしなかった、勇気と戦略に欠けた「怯懦の系譜」にしかみえない。易々と世界市場をP&Gに明け渡してきてしまったその罪は重い。「攻撃は最大の防御」という有効戦術を海外で発揮してこなかった花王は、近いうちにP&Gが伸ばしてきた爪を首筋に感じることになるかもしれない。
次稿では、世界を制覇してきたP&Gの成功の秘密について考察する。
(文=山田修/経営コンサルタント、MBA経営代表取締役)