しかし、以前の池袋は人気ランキングで上位に入るような街ではなかったはず。実際、情報誌「東京ウォーカー」(KADOKAWA)の「2010年 住みたい街ランキング」を見ると、池袋はベスト10にすら入っておらず、住友不動産や東急不動産など大手デベロッパー7社が共同運営するサイト「MAJOR7 」の「2011年 住んでみたい街アンケート」でも、池袋は20位以下という人気のなさ。新宿、渋谷とともに「副都心」と呼ばれ、1日当たりの乗降数は260万人以上と、世界有数のターミナル駅にもかかわらず、街そのものの人気はけっして高くなかったのだ。
その池袋がここ最近、なぜ人気になっているのか。
理由のひとつは「若い女性の増加」にあるという。池袋ではここ数年、「Esola池袋」「Echika池袋」「ルミネ池袋」といったおしゃれな商業施設が続々とオープンしており、この秋にも地上8階建ての「WACCA」がオープンする予定。コスメやファッション、日本ではまだ知られていない韓国料理の店や日本初の純正無添加コラーゲンスープ店、ルームウェア専門店など、いずれの商業施設も若い女性をターゲットにしているのが特徴で、こうした店が増えたことが人気上昇の一因ともいわれている。
こうした変化の象徴が、大型商業施設「サンシャイン60」近くの交差点から東池袋三丁目の交差点までの一帯、通称「乙女ロード」だ。ここにはアニメグッズ、コスプレ、同人誌の専門店、“イケメン男性”が給仕してくれる執事喫茶などが密集し、「腐女子の聖地」とも呼ばれる。もちろん、利用者のほとんどが若い女性たち。いつのまにか池袋は、ファッションビルで女子力を高めるおしゃれな女の子で賑わうとともに、“オタク文化の聖地”と呼ばれる秋葉原にも似た人気を集めつつある街になっているのである。
「池袋には西武と東武の2つのデパートがあり、駅周辺にはサンシャイン60をはじめ、パルコや丸井、ビックカメラなどの大型店舗があります。東武百貨店の食品売り場の面積は日本一で、アート系蔵書で知られるジュンク堂書店やリブロ、旭屋書店など、有名書店も多い。もともと若い女性の集客力では渋谷以上といわれていたんです」(地元の不動産業者)
そうした高い潜在的集客力に加えて、1年前からは東京メトロ副都心線と東急東横線の相互運転がスタート。一気に吉祥寺や恵比寿と肩を並べるくらいの人気の街になったというわけだ。実際に池袋で同線利用客に話を聞いてみると、こんな声が聞かれた。
「池袋は新宿や渋谷に行くための中継点という感じでしたが、以前より街の雰囲気が明るくなりました。飲食店も多いし、買い物しやすくて便利です」(30代・女性)
「おしゃれな店が増えたし、サンシャインとか水族館、ナンジャタウンもあるので、休みの日に家族連れでも来れます。交通の便がよくて、移動しやすいところもいいです」(40代・男性)
もっとも、池袋の変化は若い女性向け施設の増加だけが理由ではないという。もともと池袋には1960年代初めごろまで朝霞の占領軍基地から米軍の闇物資が運ばれてくる「闇市」があり、そこからターミナル駅として発展していった歴史がある。池袋の、地味でどこかネガティブなイメージは「闇市」の影響ともいわれているのだ。さらに、池袋駅周辺には、中高年男性客の姿が目立つ低価格な飲み屋街や、風俗店が密集した地区などもあり、「正直、池袋は“ダサい”というイメージ」(30代女性)を持たれがちであった面もあるようだ。
そこで、行政として池袋のイメージ向上に乗り出したのが現在の高野之夫・豊島区長だったといわれる。池袋の地味なイメージを変えるために「文化事業」に力を入れ、池袋ジャズフェスティバル、東京フラフェスタin池袋、池袋演劇祭などのイベントを次々に開催。その結果、だんだんと街の雰囲気が変わり、若い女性が集まり、活気を取り戻していったのだという。池袋の人気は、官民一体となって地味で垢抜けない街の改革に取り組んだ結果でもあるのだ。
(文=柳悠太/清談社)