そんな朝日に、新たな誤報疑惑が浮上している。誤った新聞記事内容で名誉を傷つけられたとして、神奈川県川崎市の社会福祉法人ひまわりの会と千葉新也理事長が、朝日に計3300万円の損害賠償と謝罪広告の掲載を求める訴訟を7月5日東京地裁に起こした。
問題となっている記事は、5月26日付同紙朝刊に掲載された連載『報われぬ国』の記事『ワンマン理事長“暴走”』。同会は2011年5月に寄付された土地を13年に売却したのだが、記事では土地売却の決め方が理事長の独断だとしており、“土地転がし”まがいの行為を行っていると指摘している。さらに、理事長が私腹を肥やすために同会を利用しているということを示唆する内容も書かれている。
同会の代理人を務める弁護士法人アヴァンセリーガルグループ執行役員の山岸純弁護士は、朝日の取材から記事掲載までの経緯について次のように説明する。
「記事掲載の約1カ月前に朝日の編集委員から取材依頼があり、事前にテーマと大まかな質問項目をいただいた上で、私と理事長が取材に応じました。質問項目になかった質問については『正確にお答えしたいので、詳細を確認して参考資料とともに理事会承認を経た上で、後日お答えします』と答えました。取材後にも先方から『お願いしている質問事項は●●ですね』と確認メールがきました。私もお待ちいただくよう返信しました。そして、私どもの回答と資料提出の前に、記事が掲載されたのです」
記事では、監査に入った川崎市担当者の「土地の使い方を理事会にはかった形跡はない」とのコメントが掲載されているが、実際には理事会で繰り返し土地売却を討議した議事録が残っており、山岸弁護士は「こちらが提出しようとしていた議事録を受け取っていれば、こんな裏付けのない記事にはならなかったはず。朝日は、『裏付け資料のない記事は掲載してはならない』という、報道機関の最低限のルールを無視した態度に出ていると考えざるを得ない」と憤りを隠さない。ちなみに、この議事録は裁判所にも提出しているという。
たとえ記者が本当に川崎市の担当者からそのようなコメントを入手したとしても、裁判で朝日にはその事実を立証する責任がある。また、仮に市の担当者が実際にそのようなコメントを行ったことを立証できたとしても、法的に名誉毀損は成立する。なお、社会福祉法人には年1回法定監査が入るが、同会が市から指摘されたのは「土地を寄付として受けた場合には、それを基本財産にするのか運用財産にするのか明確にしてください」という点だけだった。