「Jリーグは待遇悪化が叫ばれているが、それでもまだまだ世界的には高水準な収入を得ることができます。仮に選手をクビになっても、引退後はほかの仕事でも、ある程度の収入が見込めます。そういった意味で日本は非常に恵まれた国で、ハングリー精神は生まれにくい土壌があると感じています。例えば韓国人は中東、アフリカ、アメリカなど少しでも条件の良いクラブを選びます。現役期間に少しでも稼げる環境を目指すので、そういった意味では日本人よりプロフェッショナルな選手が多いといえます。日本人は、少し前までは移籍先としてアジアを勧めると、難色を示すことも珍しくありませんでした。現在は、認識が変わってきましたが、まだまだ海外でプレーする絶対数は少ないです。ただ、日本の実力が世界に広く認められるようになり、アジアのクラブからの問い合わせも年々増加していますし、今後マーケットはさらに拡大すると思います」
●アジアで戦うメリット
選手の引退後のセカンドキャリアを考えても、海外でプレーすることはメリットとなる。現在フィリピンリーグ2部でプレーする野田智裕は、26歳で初めてプロ契約を結んだ苦労人だ。野田は、大津高校、帝京大学と名門チームでプレーしたが、トップチームでの出場機会はほとんど訪れなかった。その後、働きながら貯めたお金でアルゼンチン、アメリカ、オーストラリア、シンガポール、ラドビアなど複数国を渡り歩き、フィリピンでプロ契約に至った。
「フィリピンを選んだのは、英語力を高めたいというのも理由の1つです。待遇面は決して良いとはいえませんが、物価水準が安いので、普通に暮らしていく分には問題ありません。海外に根を張ることは、選手としてはもちろん、人間力を高めることで引退後の生活も含めてプラスになると考えています。フィリピンはサッカー途上国ですが、代表戦の盛り上がりを見れば、今後数年の間にサッカー熱はさらに高まっていくはずです」(野田)
現在フィリピン代表のレギュラーには浦和レッドダイヤモンズユース出身の佐藤大介がおり、現地での知名度も高い。
プレーした国と関係性を強めておき、引退後にビジネスにつなげるケースは少なくない。特に海外でプレーする選手はメンタル面が強く、コミュニケーション能力も非常に高い傾向にあり、それはビジネスをする上でも大きく役立つに違いない。
往年のスーパースターたちが集まるインディアン・スーパーリーグが10月にインドで開幕したほか、2018年には台湾でもプロリーグ開幕予定といわれており、数年後にはアジア各国でサッカービジネスの波は大きくなることが予測される。現在アジアを舞台に戦っている日本人選手たちが、アジア各国と日本サッカーをつなぐ存在になる。そんな日が訪れるのは、もう遠い未来ではないのかもしれない。
(文=栗田シメイ/Sportswriters Cafe)