最も深刻な要因が客離れ。世界で3万5000店を超える店舗のうち、既存店売上高は前年比1.0%減と02年以来12年ぶりのマイナス成長となった。昨年7月に仕入先だった中国食品工場における期限切れ鶏肉使用問題が発覚した影響で日本と中国の業績が振るわず、アジア太平洋・中東・アフリカ地区の14年10~12月期の既存店売上高は4.8%減となった。
主力の米国では新興チェーン店に客を奪われ、昨年10~12月期の既存店売上高は1.7%減。新興勢力の代表格はメキシコ料理専門店「チポトレ・メキシカン・グリル」。価格はマクドナルドより少し高いが、地場の野菜や自然の飼料で育てた豚肉を使う。こうした新興勢力はファスト・カジュアル・レストランと呼ばれ、ファストフードとファミリーレストランの中間にあたる。店がきれい、ヘルシーなのが共通項だ。新鮮で健康的な食品を求める若者が増えていることは日米共通であり、健康志向の若者増加がマック離れを加速させる。
米マクドナルドのドン・トンプソンCEO(最高経営責任者)は、日本について「ブランドの信頼を再構築することを目指すが、時間がかかる。15年も不安定な業績を想定している」と厳しい見方を示した。
原田前社長の“負の遺産”
日本マクドナルドホールディングス(HD)の14年12月の既存店売上高は前年同月比21.2%の大幅減。客数も同14.2%の減で、月次で2ケタの売り上げ減が続いていたが、クリスマスなど書き入れ時の12月が大きく落ち込んだ。信用回復が遠のいているところへ、年明けから異物混入事件が相次いで発覚。さらに1月7日の謝罪会見が“開き直り会見”と批判を呼び、傷口を広げた。
日本マクドナルドHDの14年12月期の連結最終損益は218億円の赤字(前期は51億円の黒字)となり、期中予想の178億円の赤字から一段と悪化した。2月5日の決算発表時点では、異物混入などの影響を見通せないとして15年12月期(通期)の連結業績見通しや年間配当の公表を見送ったが、アナリストは15年12月期の最終損益も赤字と予測しており、今期も黒字化は難しい。
「原田泳幸前社長の“負の遺産”が大きくなった。売り上げが落ち込んだのは原田時代の13年夏からで、既存店売り上げは12年に9年ぶりにマイナスに転じた」(業界関係者)
原田氏は業績を上げるために徹底的な合理主義を貫いた。「接客時間を1秒短縮すれば、8億円の増収効果がある」というポリシーに基づき、商品提供までの時間を短縮するため、12年にレジカウンターからメニューを撤去したが、「商品を選びにくくなった」と客から不満が出た。13年には60秒以内に商品を提供できなければ商品の無料券を渡すというキャンペーンを始めたが、接客が雑になったと批判され、いずれの施策も売り上げ増に結びつかず、現場の混乱を招くだけに終わった。
原田氏はマーケティングの専門家で、コストダウンと価格戦略を重視する米国型の経営者である。現場を知る幹部が意見しても聞く耳を持たず、優秀な人材が次々に辞めていった。現場力が落ちたことが致命的だった。その結果、原田氏が常々主張してきた外食産業の基本であるQSC(品質、サービス、清潔さ)が劣化し、ついにはビニール片、プラスチック片、鉄くず、羽虫、歯まで出てくる異物混入騒動が起きた。
効率経営を推進した結果、現場力も商品ブランド力も、店舗の魅力も失われた。サラ・カサノバ社長もマーケティング畑の出身であり、積極的に現場へ顔を出しているが、カサノバ社長就任以降、目立ったヒット商品は出ていない。
不祥事が続く日本マクドナルドHDだが、株価は下げ渋っている。発行済み株式の49.9%を親会社の米マクドナルドが保有していることが大きい。もう一つの「理由は、ハンバーガーなどが無料でもらえる株主優待券目当ての個人株主が多いからだ。株主の実に40%(27万人)が個人である。
揺らぐ米国本家
そんな中、米国本家の足元が揺らいでいる。
「15年12月決算の見通しが固まった段階で、カサノバ氏が更迭される。後任社長も米国本社から派遣されることになるだろう」(日本マクドナルドHD関係者)
米マクドナルドは業績不振を受け、1月28日、ドン・トンプソン(CEO)が3月1日付で退任すると発表した。後任にはシニア上級副社長のスティーブ・イースターブルック氏を起用する。
トンプソン氏は12年7月にCEOに就任後、販売不振に悩む米国事業のトップを更迭し、再建策を打ち出したが実らなかった。米国の14年度既存店売上高は、前年比2.1%減となった。2年連続のマイナス成長で、減少幅は2000年代で最大となった。米国は全世界の店舗3万5000店の4割、全売上高の3割を占める主戦場だ。米国の低迷が業績を直撃した結果、14年の米国事業の営業利益は01年以来、13年ぶりに減少。連結純利益は前年比15%減となった。トンプソン氏は目立った成果を上げることができず、2年半でトップの座を降りることになった。
後任のイースターブルック氏は現在、世界全体のブランド構築の責任者を務めている。1993年に財務担当として米マクドナルドに入社。英国トップや欧州事業の社長を歴任した後、11年に同社を退社。英国ピザチェーンや日本食レストランのトップに就任した経歴を持つ。外からの目を持ったCEOの登場で、米マクドナルドは経営の立て直しを図る。そして「米国のトップの交代は、カサノバ社長の進退に影響を及ぼす」(外食業界関係者)とみられている。
2月5日に記者会見したカサノバ社長は「(赤字転落の)結果を重く受け止めている」と述べ、自身の経営責任については「ビジネスが回復するまで満足しない」と、自ら先頭に立って消費者の信頼回復に取り組む考えを示したが、「第1四半期(15年1~3月)中に業績見通しを公表する」としていることから、今夏までにもカサノバ社長の後任が決まる可能性が強まったといえる。
日本マクドナルドHDの1月の既存店売り上げは前年同月比38.6%減と上場以来最大の落ち込みとなった。既存店来客数は1月まで21カ月連続の前年割れが続いており、売り上げ減も深刻だ。メニューを見直すほか、新店舗・改修済み店舗の割合を16年末までに90%(現在は25%)に引き上げるとしているが、店舗の改修には費用と時間がかかる。業績がこれだけ落ち込めば店舗の改修にお金が回らなくなる可能性もある。
5日の会見で米マクドナルドの社長交代についてカサノバ社長は、「(新社長の)意見は参考にするが、私は日本のCEOとして指揮を執る」と述べたが、米本社とカサノバ社長との間に距離があることをうかがわせる発言とも受け止められた。ちなみに業績悪化を受けて日本マクドナルドHDは「役員報酬の削減の予定はない」という。
外食産業減速という“渦”
日本マクドナルドHDや牛丼チェーンに行かなくなった客は、コンビニエンスストアやスーパーに流れている。食費を節約するために割高なコンビニではなくスーパーで弁当を買う消費者も増えている。外食そのものが贅沢な行動となっているのだ。モスバーガーは14年度の時間帯別売り上げを05年度と比較すると、朝食時間帯は数十億円増えたが、夕食時間帯はそれ以上に減っている。客単価が相対的に高くなる夕食時間帯の売り上げ減は外食産業にとっては痛手だ。
外食産業全体が減速するという“大きな渦”に、日本マクドナルドHDものみ込まれている。
(文=編集部)