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NHK、政権擁護の歪曲報道疑惑 野党の約3時間の首相追及報じず、首相答弁のみ放送

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2月9日、参議院会館内で行われた記者会見の様子
 イスラム過激派組織・イスラム国によって日本人の人質が殺害されたとみられる事件に関し、安倍政権の政策や行動に対する批判を自粛する空気が一部に広がっている。それはマスコミや国会議員にも及び、危険な雲行きになりつつある。

「このような非常時には国民一丸となって政権を支えるべき」
「人命尊重を第一に考えるなら、政権の足を引っ張るような行為はしてはならない」
「いま政権を批判すれば、テロリストを利するだけ」

 このような理屈で政権批判を抑え、翼賛体制が構築されるような雰囲気である。こうした空気に真正面から異を唱えるため2月9日、参議院会館内で「翼賛体制の構築に抗する言論人、報道人、表現者の声明」を発表する記者会見が行われた。

 現状に危機感を抱くジャーナリストの今井一氏、映画作家の相田和弘氏、元通産官僚で現在さまざまなテレビ番組でコメンテーターを務める古賀茂明氏らが協力して声明文を作成した。

 記者会見の冒頭、今井氏がこれまでの経過を説明した。それによると、2月1日にインターネット上で声明文を発表したところ、翌日には2万380ものアクセスがあったという。言論表現者として名前を出して賛同する人は2月11日現在で約2000人、職業として言論表現活動はしていないが、賛同者を支援すると表明した人が約3000人もいる。

著名人やマスコミ関係者が実名で賛同

 賛同者の特徴としては、作家の平野啓一郎氏、馳星周氏、音楽家の坂本龍一氏、映画監督の是枝裕和氏、哲学研究者の内田樹氏など、錚々たる著名人が名を連ねていることが挙げられる。

 もうひとつの特徴は、テレビ局、大手出版社、大手新聞などに所属するプロデューサー、ディレクター、編集者、記者などが実名で名乗り出ていることだ。

 フリーで有名な言論人などが声明を発することはあっても、組織に所属する人が名前を出して政治的社会的発言をすることは極めてまれだ。その組織人が続々と名乗り出ているのは、いかに現状が危機的かを表している。

 会見の司会進行を務めた今井氏は次のように語った。

「多くの著名人から賛同が寄せられたが、ネット上なので“なりすまし”も考えられる。そこで何人もの人に直接確認をした。例えば作家の中沢けい氏。電話で話すと間違いなくご本人で、『いま言論人が立ち上がらなければ、この国は駄目になる』という趣旨のことを強調されていた」

 また、NHKの現役プロデューサーとディレクターも名前を出しており、彼らから届いたメールの内容も紹介された。

「黙っていることはもはや同意とみなされかねないので、危険な世の中になってしまったと危惧します」(プロデューサー)

「後藤健二さん、湯川遥菜さん、本当に残念でした。日本という国がいかに個人を守らない国か、よくわかった出来事でした。のみならず安倍政権は、このことを利用し、戦争をできる国にしようとしています。大変危険な局面にきていると思います。誤った道をこの国が選択することのないよう、個人としては微力であっても、口を閉ざすことなく言い続けていく必要があると思います。この声明に賛同します」(ディレクター)

 NHKのほか、神奈川新聞、他の大手新聞社、大手出版社の社員も、声明の賛同者として名を連ねている。

独裁国家への3段階

 記者会見当日は、パロディストのマッド・アマノ氏、憲法学者の小林節氏、古賀茂明氏、作家の雨宮処凛氏らが出席した。

 古賀氏は、現在日本が置かれている情勢を次のように解説している。

「独裁に至るには3段階があり、(1)自由な言論の抑圧、(2)メディアが体制に迎合し自粛を重ねる、(3)民主的な選挙で独裁政権が誕生する、といった流れです。すでに政府与党からメディアに対する圧力があり、今は第2段階に入っているといえます。圧力に加えて懐柔もあります。例えば、新聞社には消費税の軽減税率をちらつかせ、アメも用意しているのです」

 このような段階で、メディアが政権の顔色をうかがって自粛を積み重ねていくと国民に正しい情報が伝わらず、現政権は正しい政治を行っていると人々は思い込み、選挙で独裁政権が生まれることになる。

「だからこそ、組織に属する人が名前を出してくれることは心強い」(同)わけだ。

 古賀氏の言う第2段階、「自粛の積み重ね」「メディアの体制迎合」は人質問題の報道でも明らかになっており、会見後半で司会の今井氏が発表した調査結果は衝撃的である。

 自粛というが、実は国会では野党議員が積極的に安倍政権の対応を追及しているのだ。それにもかかわらず、テレビ局が番組で積極的に取り上げていない実態がある。

野党の国会追及を積極的に報道しないテレビ局

 以下は、今井氏が調査して発表した内容だ。

【2月2日】
 2人の国会議員がそれぞれ70分間と105分間、安倍首相を追及した。それに対するテレビ報道の時間はどうか。

『NHK ニュース7』(NHK)…38秒
『ニュースウォッチ9』(NHK)…1分30秒
『News Zero』(日本テレビ系)…20秒
『報道ステーション』(テレビ朝日系)…4分17秒
『News 23』(TBS系)…30秒
『ワールドビジネスサテライト』(テレビ東京系)…30秒
『News Japan』(フジテレビ系)…放送なし

【2月3日】
 5人の議員が追及。

『NHK ニュース7』…25秒
『ニュースウォッチ9』…5分
『News Zero』…30秒
『報道ステーション』…8分40秒
『News 23』…1分21秒
『ワールドビジネスサテライト』…2分
『News Japan』…21秒

【2月4日】
 4人の議員が追及。

『NHK ニュース7』…3分10秒
『ニュースウォッチ9』…3分20秒
『報道ステーション』…4分
『News 23』…56秒
『ワールドビジネスサテライト』…放送なし
『News Japan』…20秒

 唯一『報道ステーション』だけが一定時間以上報道しているが、他局はまともに伝えていない。NHKに至っては、野党議員の追及場面をほとんど映さず、一方的に安倍首相の答弁だけを流している。これは政権へのサービスであり、公共放送の役目を果たしていない。

 テレビが政権にほぼ全面屈服している現状で、今回の声明は非常に意義深いものになるだろう。賛同者たちは、今後も言うべきことを言っていくという。声明の最後の部分を紹介しよう。

「私たち言論・表現活動に携わる者は、政権批判の『自粛』という悪しき流れに身を委ねず、この流れを堰き止めようと考える。誰が、どの党が政権を担おうと、自身の良心にのみ従い、批判すべきだと感じ、考えることがあれば、今後も、臆さずに書き、話し、描くことを宣言する」
(文=林克明/ジャーナリスト)