米清涼飲料大手コカ・コーラが大改革に乗り出した。若者の健康志向の高まりによる炭酸飲料離れとドル高で、看板商品のコカ・コーラが振るわず、業績が悪化。2014年12月期決算で2年連続の減収減益となった。危機感を強めた同社は植物由来の「緑のコーラ」を開発した。商品戦略を見直すとともに、大規模なリストラで巻き返しを図る。
コカ・コーラの14年12月期の純利益は前年同期比17%減の8400億円。売上高も2%減少し、5兆4700億円だった。北米や欧州で炭酸飲料の販売が低調だったうえ、リストラ費用やドル高も重荷となり、2ケタの減益となった。
著名な投資家であるウォーレン・バフェット氏がコカ・コーラをやり玉に挙げたことが、経済メディアを賑わせた。バフェット氏がコカ・コーラを「米国を代表する企業ブランド」として高く評価し、バフェット氏が率いる投資会社バークシャー・ハサウェイはコカ・コーラ株式の約9%を保有する筆頭株主だ。そのバフェット氏が、コカ・コーラを鋭く批判した。
「理由は、コカ・コーラの『並外れた』従業員への報酬体系。たとえばストックオプション(自社株購入権)だけでも2011~13年の平均で、同社の発行済み株式の1.3%に達し、バフェット氏は『幹部に法外な報酬をもたらす宝くじだと批判した』」(14年11月5日付産経新聞より)
コカ・コーラの経営陣は当初、「ストックオプションは業界の標準水準内にある」と反論していたが、業績悪化で白旗を掲げた。14年10月に、同年12月期と15年12月期の利益目標を達成できないとの見通しを明らかにした際に、報酬制度を見直すと発表した。米経済紙ウォールストリート・ジャーナルは「コカ・コーラがバフェット氏の圧力に屈した」と伝えた。
コカ・コーラは厳しい収益環境を受けて、コスト削減を進める。16年までに年間コストを10億ドル減らすという従来の目標に加え、19年までに削減額を30億ドル(約3200億円)に積み増す、新たな目標を設定した。全世界の従業員を1800人削減する計画で。削減人数は過去15年間で最多となる。同社のムーター・ケントCEO(最高経営責任者)は「リストラを進めているが、効果が出るには時間がかかる」と語っている。
健康志向に応える新製品「緑のコーラ」
1886年に米国ジョージア州アトランタで誕生したコカ・コーラは、1915年に誰でもひと目でコカ・コーラとわかるような独得の形のボトルを開発した。そのボトル誕生からちょうど100周年となる15年1月27日、日本コカ・コーラは都内でブランド戦略発表会を開催し、新製品「コカ・コーラ ライフ」の発売を発表した。コカ・コーラの新製品は07年に発売したカロリーのない「ゼロ」以来8年ぶりだ。植物由来の甘味料ステビアと砂糖を組み合わせ、カロリーを通常のコカ・コーラに比べ100ml当たりで半分以下の19kcalに抑えた。人工甘味料を使っていないため、味わいはよりナチュラルになったという。同製品は3月9日より全国で売り出され、税込み希望価格は500mlボトルで151円。
コカ・コーラ ライフは、昨年8月から米国を皮切りに発売を始め、商品ラベルの色が話題になった。従来のコーラは赤だが、こちらは鮮やかな緑色であり「緑のコーラ」として話題を呼んでいる。肥満大国の米国を中心に世界的な健康志向が強まり、同社の稼ぎ頭だった炭酸飲料の消費が頭打ちになっていることが開発の背景にある。健康的な食品を求める消費者が増え、ファストフード離れを起こしているのと同じ理由である。コカ・コーラは緑のコーラで、女性を中心とした大人層の需要の掘り起こしを狙っている。
米コカ・コーラは「消費者は味を損なわず、それでいて栄養価の高い商品を求めている」として、2月から米国で牛乳の取り扱いを始めた。通常の牛乳に比べ、高タンパク、高カルシウム、乳糖ゼロの牛乳「フェアライフ」を製造するメーカーと提携。コカ・コーラが流通・販売を手掛ける。米国のコカ・コーラ ライフは1本当たりの容量を220ml程度に抑えた「ミニ缶」の種類を増やしている。容量を減らしたほど価格は下げておらず、実質値上げとなっている。
清涼飲料の世界シェアでコカ・コーラは約25%、ペプシコは約10%だ。ペプシコは市場環境が厳しい中でも、14年の業績は年間目標を達成した。コカ・コーラとの違いは、食品事業を持っていることだ。ペプシコは、売上高に占める飲料事業とスナック菓子など食品事業の比率がほぼ半分ずつだ。米国の飲料売り上げは横ばいだったが、北米と中南米で食品が伸びた。株主にスナック事業の分離を求められたことがあるが、現状はスナックなど食品事業が飲料の不振を下支えしている。
ペプシコのウイークポイントは中南米の比率が高く、ロシアでも存在感を高めていること。いずれも景気の鈍化が懸念されている。
国内飲料業界に再編機運
一方、国内飲料市場に目を転じてみると、飲料総研の調査によれば、14年の同市場は前年比2%減の18億3000万ケースと5年ぶりのマイナスとなった。このうち炭酸飲料は同1%減の2億7700万ケース。15年もマイナス成長を予測している。
市場が縮まり、競争が激化すれば、撤退や買収・統合が活発になる。日本たばこ産業(JT)は15年9月末をメドに、飲料の製造、販売事業から撤退する。飲料市場の厳しい競争の中で生き残りは難しいと判断した。飲料総研によると、14年のJTの飲料市場のシェアはわずか1.6%で第10位。缶コーヒー「ルーツ」はJTの代表商品だが、「ボス」(サントリー)、「ジョージア」(コカ・コーラ)に遠く及ばない。
JTの飲料の売り上げは自販機が大部分を占めるが、自販機事業は今回の撤退の対象になっていない。JTの自販機は全国に26.4万台あり、飲料メーカーにとって大きな魅力だ。手に入れば、自社商品の自販機販路を一気に拡大することができるからだ。JTの自販機事業は、サントリー食品インターナショナルとアサヒグループホールディングス傘下のアサヒ飲料争奪戦になるとみられている。
飲料業界はかねてから再編必至といわれ、「JT、カゴメ、ダイドードリンコが候補」とされてきた。JTが撤退するため、カゴメとダイドーの動向に注目が集まる。
14年のメーカー別シェアは、1位の日本コカ・コーラグループが27.6%、サントリー食品インターナショナルが20.5%。08年のリーマンショック前まで日本コカ・コーラがシェア30%を超え独走状態だったが、サントリーが激しく追い上げている。
業界トップである日本コカ・コーラは、再編の動きに距離を置く。ボトラー(飲料の製造や販売を行う会社)の統廃合で経営の効率化を進めており、最終的にはボトラーを1社にする考えを持っているとされる。
(文=編集部)