1年以上も金融庁の検査が続くという異常事態に陥っている信用金庫がある。東京都立川市に本店を置く多摩信用金庫だ。多摩信金は全国信用金庫協会の副会長信金を務め、東京都信用金庫協会の会長金庫を兼務する東京の名門信用金庫でもある。
4月1日、多摩信金の支店長会議が開催された。挨拶で八木敏郎理事長は次の旨の発言をした。
「昨年5月に始まった金融庁の検査が、まだ終わっていない。当局から指摘のあった問題点について何度も改善策を提出しているが、受け取ってもらえない」
この発言は、半分は正しく半分は間違っている。確かに、金融庁は多摩信金から提出された改善策を受け取っていないが、検査自体は終了しているのだ。金融庁は金融機関に検査に入ると、その結果見つかった問題点について改善策の提出を求める。その改善策が妥当なものであれば了承し、次回の検査で改善が行われているかを検証する。
多摩信金の場合、検査は終了しているものの、改善策に対して金融庁がその有効性を認めず、改善策の練り直しを何度も求めており、いまだに受理していないというのが実態なのだ。
多摩信金の問題の発端は内部告発だった。前理事長の佐藤浩二会長が暴力団組長の葬儀に出席していたことが一部雑誌に掲載され、この内部告発に対する“犯人捜し”が始まった。さらに、社内の内部通報制度に不正を告発した職員が左遷されるなどの事態が相次ぎ、その上、反社会的勢力への融資が内部告発により表面化した。そして一連の情報は、内部告発として金融庁へも通報された。
これを受け金融庁は昨年5月のゴールデンウィーク明けに、多摩信金へ検査に入った。通常、信用金庫の検査は財務局が行うのが通例だが、本省の肝入りで検査が進められ、検査も通常は1カ月間程度の立ち入り検査が3カ月の長期に及ぶという異例ずくめだった。
こうした事態が複数のマスコミに取り上げられ、さらに「週刊新潮」(新潮社)が佐藤会長による菅直人元首相の実家に対する情実融資を掲載するなど、コンプライアンス面での問題が次々と表面化していった。
名門ゴルフクラブが利用拒否
影響は多摩信金内にとどまらなかった。関係者によると、多摩信金が取引先などを招いて毎年開催している「多摩コミュニティカップ アマチュアゴルフトーナメント(多摩カップ)」が、開催コースとなっていた「東京よみうりカントリークラブ」から使用を断られたという。 同クラブは読売新聞社主であった正力松太郎氏が開設し、「ゴルフ日本シリーズ」も開催されている名門コース。同信金にとって、このコースでトーナメントを開催することは誇りでもあった。