アイドル業界、衰退期へ突入?効率良く成功するための方法を、現役アイドルたちと考える
アイドルはマーケティングの最前線にいる?
みなさんは、「アイドル」と「マーケティング」を掛け合わせて考えたことはありますか?
アイドルというと一般的には歌やダンスに彩られた華やかな世界が想像されますが、アイドル業界は変化が激しく、ますます不透明な業界になりつつあります。そうしたなか、アイドルが自らの頭で考え自分自身の魅力を発信していくことの重要性は高まっています。そこで本企画では、経営学やマーケティング理論に精通しており、「アイドルはマーケティングの最前線にいる」との持論を持つ外資系戦略コンサルタント、CuteStrategy氏を講師に招き、現役アイドルの方々にマーケティング理論を学んでいただきます。
彼女たちは夢の実現のためにどのように考え、どのように行動すれば効率的なアプローチができるのか――。今までにないこの試みは、果たしてどのような結果になるのでしょうか。
これから計3回にわたる本企画の第1講は、アイドル市場の変化、アイドルのセルフ・プロデュースの重要性、そしてマーケティング理論に入る前の基礎などをダイジェストでお届けします。
生徒紹介
2011年からアイドルとして活動しており、今年5月20日にメジャーデビューを果たした寺嶋由芙。ゆるキャラとのかわいらしいコラボレーションで注目を集めています。
「ソロで活動しているので、自分のやっていること、やりたいことをもっと発信できるようにならないといけないと思っています。今は私のファンでない方にも情報を届ける方法を知ることができればいいなと思っています。新規ファンを増やしたいです!」(寺嶋)
11年から活動しており、今年7月5日に日比谷野外大音楽堂で3000人を魅了したアップアップガールズ(仮)所属の森咲樹。
「道重さゆみさんや嗣永桃子さんなど事務所の先輩にはセルフ・プロデュースに長けている人々がいて、みなさんそれぞれ輝いています。そこに関して私はまだ足りていないと感じているので、私もセルフ・プロデュース力を上げたいです!」(森)
著名な社会学者でもある濱野智史氏が総合プロデューサーを務め、14年末から活動開始した「アイドルが自らアイドルをプロデュースしていく」という新しいかたちのアイドルグループPIPからは、濱野氏とメンバーの石川野乃花(リーダー)、空井美友、濱野舞衣香の4名。
「グループのコンセプトから自分自身と他のメンバーのプロデュースも考える必要があります。私はリーダーとして、今日はたくさん学んで帰りたいです」(石川)
アイドル市場の概要
まず簡単に、国内アイドル市場の現状について説明していきます。下記の図のように、日本人のアイドルに対する興味度は年々下がっており、ブレイクするアイドルは小粒化してきています。
ファンの熱狂度もアイドルグループそのものが増えることで分散化しており、また解散や卒業する人気アイドルが増えたことでますますブームが冷めてきたように感じられます。
アイドル経験の長い彼女たちの目に、この市場の変化はどう映っているのでしょうか。
「アイドルフェスや対バン(複数のグループやバンドが競演するライブ)が増えた影響で、DD(1人のファンが複数のアイドルを応援すること)がとても増えたように感じています。いろいろな人が私たちを見てくれて嬉しいと思いますが、アイドル一人当たりに対する応援の熱量が下がってしまっているのは残念です」(寺嶋)
「私が小学生の時はモーニング娘。さんが、高校生の時にAKB48さんがとても流行りました。大学1、2年生の頃はKポップも流行りましたが、今は確かに下火かもしれません」(森)
実際、市場の浮き沈みをモデル化したライフサイクル理論と照らし合わせても、現在のアイドル市場は衰退期に面しています。しかし、その衰退局面で取ることのできる3つの戦略の中から、現在のアイドルには「撤退」ではなく、新しい市場を自ら切り開いていく「展開」を選び、その方法をこの講座から学んでほしいと思います。
成功し続ける企業から学ぶ、アイドル成功の秘訣とは?
不透明な株式市場やビジネスの世界では、実はエリートや知識層ですら未来を予測できていないことが、さまざまなデータから明らかになっています。そのため、周囲の人の言うことを過度に信じるより、アイドル本人が自身の感性を信じることが重要です。
では、不透明なビジネス市場においてどのような行動をするのが重要なのでしょうか。
長年にわたり成功し続けている企業は、次の2点を重要視しています。
・ビジョン(将来の理想像)に向かって、失敗を恐れず何度も効率の良いチャレンジを行う
・顧客の意見や行動に目を向けて、満足度を高める方法と、そこに新しいイノベーションの種はあるのかを探す
これらは、アイドルの世界でも十分に生かすことのできる考え方です。アイドル業界はアイドル本人とファンの距離がとても近い分野で、アイドルは握手会やSNSを通じてファンから素早いフィードバックを得ることができます。この特性を生かして、ファンの声から自分のビジョンに向かうアプローチを常に軌道修正し、新しい市場を切り開くための武器となる自分の新しい魅力を見つけ出すことが重要です。
さて、ここまででアイドルのセルフ・プロデュースがなぜ重要になってくるのかを説明しました。次からは、アイドルがマーケティングを学ぶ上で必要となるビジネスの基本について学びます。
アイドルが提供する最も必要不可欠な価値=成長ストーリー
まず、そもそもビジネスとは何かについて定義すると、ビジネスとは「提供する価値に対してお金をもらう交換行為」のことを指します。
特にその価値については時代の流れとともに変わってきており、現在、私たちは原材料や製品、サービスなどではなく経験に対して価値を感じ、お金を払う比重が高くなっています。実はアイドルが近年求められた背景には、音楽やライブをただ提供するのではなく、「ファンにさまざまな感情を抱かせる経験」に特化して価値を提供するという、時代の流れに沿っていたということがあります。
次に、アイドルにとって最も必要不可欠な価値とはなんなのでしょうか。それはずばり、アイドルたちの成長ストーリーです。
日本のアイドルは他のエンタテインメントとは異なり、女優やソロ歌手となるまでの育成段階をエンタテインメントとして提供するという位置付けにあります。そのため、彼女たちは基本的に未完成な存在であることが前提とされます。だからこそ、前回より大きな会場でライブを実施するといった成長、アイドル同士の喧嘩や和解といった内面的な成長や、「○○枚CDを販売できなければ解散」といったような運営者側の設定したハードルを乗り越えていく姿をファンが見て「応援しよう」と思う感情こそ、アイドルビジネスにとって一番コアな部分といえるのです。
こうしたアイドルたちの人間的成長ストーリーとともに、近年では「アイドルとファンの関係性の成長ストーリー」も重要視されています。握手会に何度も足を運んだり、ブログにコメントするなどSNS上でのやりとりを行ったりすることで、アイドルとファンは双方向の関係性を持つことができるようになったからです。
アイドルがマーケティングを理解する上で重要な3つの考え
第1回の最後として、アイドルがマーケティングを考える上で重要で基本的なビジネスの3つの考え方、「選択と集中」「差別化」「PDCAサイクル」について紹介します。
(1)選択と集中
企業や個人の持つ資源は限られているため、その資源をどこに投資するかを見極め、そこに資源を集中させることによって最大の効果を得るためにはどうすべきか考えることです。この考えは、自分の魅力を誰に伝えるか(ターゲット)、どのように伝えるか(メディア)を考える上で重要です。それ以外にも、個人で最も限られた資源は時間であるため、自分の仕事を緊急度と重要度の高低に分類することで、どの仕事から終わらせていくべきかの優先順位を考える時間管理マトリクスが大切です。
(2)差別化
多くの競合がひしめく中、自分の魅力を多くの人に知ってもらうためには、「他のグループやアイドルとは何が違うか」「その違いはファンに対してどのような価値があるか」を明確にしなければなりません。
例えばファスト・ファッション業界では、「消費者はどのブランドが好きか」「なぜ好きか」という質問形式に基づき差別化が行われています。また、ある有名芸能人は、芸能界のライバルや自分のポジションをマップ化して戦略を立てています。アイドルにとって、自分を他者と差別化することには大きなメリットがあります。
(3)PDCAサイクル
PDCAサイクルとは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)を繰り返すことです。自分の将来の夢に向かって行動するにも、ただやみくもに行動しては実現することはできません。そこでビジネスの世界で頻繁に用いられるPDCAサイクルを回すことで、自分の行動を速く効果的な行動に変えていくことができます。
本稿では、主にアイドルの置かれている現状とアイドルビジネスの概要について紹介してきました。次回は今回学んだ内容を踏まえ、現役アイドルである生徒たちの夢と、そこに到達するためのアプローチ方法について考えていきます。
(講師=CuteStrategy/外資系戦略コンサルタント)
※本記事はCuteStrategy氏が講師を努め、海外に500万人以上のファンを持つTokyo Girls Update)と共同で開催した、アイドルが学ぶマーケティング講座の内容をまとめたものです。