「『ビジネスモデル』という言葉が、『戦略』とどのように違うのか、よくわからない」という声をよく耳にする。ビジネスモデルは「仕組み」という言い方もされるが、「じゃあ、『仕組み』とは何なのかを教えてほしい」とも言われる。「ビジネスモデル」という言葉には、明確な定義はないが、今回は読者の腹に落ちるようなかたちで、私なりにこの疑問に答えてみたい。
伝統的な戦略論とは、どういったものか?
ビジネスモデルを論じる前に、まず戦略について知っておこう。
そもそも、戦略とはなんだろうか? 「戦略」を表す英語は「strategy」だが、そこに本来「戦(いくさ)」という意味はない。strategyとは「方策」のことで、戦略とは「ある目的ないし目標を達成するための手段、あるいは方法」と考えればいい。これは、軍事においてもビジネスにおいても共通である。
では、ビジネスにおける戦略とはなんだろうか。特にコーポレート戦略や生産、営業などの機能戦略と対比した時の事業戦略においては、売り上げや利益を達成するための方策として、伝統的に「市場におけるポジションの選択」が戦略の内容になると考えられてきた。
市場におけるポジションとは、言い換えれば「どの市場で戦うか」あるいは「市場のどこで戦うか」ということだ。例えば「女性市場で戦う」「高級品市場で戦う」というふうに、市場を選択するのである。
市場を構成している二大要素は、顧客と提供価値(売り物)であり、市場はそのどちらからでも定義することができる。例えば、高級品市場は売り物、女性市場は顧客の側から市場を定義した例だ。
「こんな製品を出そう」「こんな顧客を狙おう」という会話は、実は市場のポジションについて語っている。戦略とは「『誰に』『何を』売るかだ」、という言い方もされるが、顧客と売り物は市場の二大構成要素なので、それはすなわち市場を選択することを意味しているのである。
アメリカの経営学者のマイケル・ポーターが提唱する「5つの力モデル」というフレームワークがある。5つというのは、「業界内の競合企業」「新規参入の脅威」「代替品の脅威」「売り手の交渉力」「買い手の交渉力」のことであり、これは市場の魅力度を測る道具であって、ポーターが「戦略は市場の選択の問題だ」と考えていることを端的に示している。
ポーター以後、「ポジションは5つの力のような、市場が備える客観的な特徴のみならず、自社の強みや弱みを考慮して選択しなければならない」という、いわゆる自社のケイパビリティの議論がされている。しかし、戦略の内容が基本的に市場の選択であるという考え方には、変わりはないのである。