AKB元メンバーの板野友美さんに「年間数千万払っている」と豪語していた木崎優太氏が経営する大手接骨院チェーンMJG が、4月10日に約44億円の負債を抱えて破産したと「週刊文春」(4月30日号/文藝春秋)で報じられた。
同社では以前から資金繰りが厳しかったようだが、木崎氏は板野さんへの支援を続けてきた。2019年度のMJGのイメージキャラクターに板野さんを起用し、MJGが社用車としてリースした高級車「ポルシェ・マカン」を昨年11月から、板野さんの専用車として供与していたのだが、この車は最低でも700万円以上するらしい。
そのうえ、木崎氏は経営が悪化する中でも板野さんの家族への支援まで続けている。板野さんの所属事務所であるホリプロは、「週刊文春」の取材に「男女関係は一切なく、仕事上の関係です」と回答したようだが、仕事上とはいえ木崎氏は板野さんのパトロンだったのではないか。
AKB商法はプチ・パトロン気分を味わわせるビジネス
そもそもAKB商法は、握手会にせよ総選挙にせよ、参加するためにはCDや参加券などを買わなければならず、ファンがプチ・パトロン気分を味わえるシステムのように見える。しかも、握手という身体接触を伴う行為は、ファンの恋愛幻想をかき立てる。
もともとアイドルはファンにとって疑似恋愛の対象なのだが、「会いに行けるアイドル」であるAKBは、ファンとの距離が近くなったことによって、これまで以上に恋愛幻想をかき立てる。その結果、さまざまな問題が起きている。大量のCDが捨てられたこともあれば、握手会でメンバーがファンに襲撃されたこともある。
もっとも、ショービジネスの世界でパトロンとの“密接な関係”が取り沙汰されるのは、古今東西変わらない。たとえば、19世紀のパリのオペラ座は「上流階級の男たちのための娼館」と呼ばれていたほどである(『怖い絵』)。
オペラ座という「娼館」に常駐していた踊り子にとっては、「バレエ芸術の真髄を極めるも何も、まずは良いパトロンをつかまえるのが先だった。桟敷席を定期的に借りるほど資力ある男たちも、それは先刻承知である。厳然たる階級制度の中で、幾重もの差別感情を抱きつつ、彼らは踊り子に接近する。めでたく双方の思惑が一致すればパトロンとなって、愛人のためにありとあらゆる利を図るという次第だ」(同書)。
これを現代の芸能界に置き換えたら、踊り子はアイドルグループで歌いながら踊る若い女の子だろう。一方、パトロンは、CMスポンサーをはじめとする「資力ある男たち」なのだろうが、AKBの場合、パトロンになろうと思えば誰でもなれるのが巧妙なところだ。CDや参加券などにお金を使えばいいだけなので、少なくともプチ・パトロンにはなれることが、AKB商法の成功の秘訣だと私は思う。
しかも、「双方の思惑」が一致しやすいように見える。AKBメンバーの側にはセンターに立ちたい、スターになりたいという思惑があり、ファンの側には「推しメン」に気に入られたい、できれば“密接な関係”になりたいという思惑があるに違いない。
そして、「双方の思惑」が一致すれば、めでたしめでたしということになる。もっとも、メンバーがファンとつながっていたことが露見して、脱退を余儀なくされる騒動が後を絶たないのは、「双方の思惑」の一致のせいではないか。
AKB48劇場を「娼館」 呼ばわりするような失礼なことを私はしない。そんなことをすれば、ファンに袋叩きにされそうだし、名誉毀損で訴えられかねないからだ。ただ、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、握手のような“濃厚接触”を伴うファンサービスはしばらくの間できなくなりそうなので、これを機にAKB商法を見直すべきだろう。
(文=片田珠美/精神科医)
参考文献
中野京子『怖い絵』角川文庫 2013年