東京株式市場で上場子会社株に思惑買いが広がっている。8月21日の取引時間中に日本ペイントホールディングス(HD)が、同社株の39.6%を保有するシンガポール塗料大手、ウットラムグループの傘下に入ると報じられ、上場子会社株式の一部が一段高となった。
日立金属、日立建機が再編期待で買われる
日立金属の株価は8月20日に急騰した。前日比227円高の1740円まで上げた。一部で「親会社の日立製作所が日立金属を売却する検討に入った」と報じられたことが材料視された。日立金属の時価総額は7000億円台である。大型M&A(合併・買収)になる見通しだ。
報道によると、外資系証券会社をフィナンシャルアドバイザーにし、入札の準備に入ったという。TOB価格は株価にプレミアムが乗せられる。売却先も明らかになっていない段階だが、プレミアムが付くことへの期待から買われた。
日立グループの再編が最終段階に入ったことは間違いない。残る上場子会社である日立建機にも買いが波及している。8月20日には前日比90円(2%)高の3650円を付けた。その後も連日で上げ続け、8月31日には3790円まで上昇した。
親子上場は政府の未来投資会議でも問題点が指摘されており、風当たりが強い。新型コロナによる株価急落は、親会社にとってTOBなどによって親子上場を解消するきっかけとなり得る。
こうした流れのなかでソニーは、銀行や保険を営む子会社のソニーフィナンシャルホールディングス(HD)を9月2日付で完全子会社にした。これまで約65%の株式を保有していたが、5月に完全子会社化の方針を打ち出し、TOBで残る全株式を取得した。ソニーフィナンシャルHDは8月31日付で上場廃止となった。
上場子会社の“TOB予備軍”としては、NECの子会社、日本航空電子工業(NECが35.2%を保有)、住友グループの住友理工(住友電気工業が49.5%を保有)などが挙げられている。伊藤忠商事がファミリーマートを完全子会社したことから、三菱商事の子会社ローソン(三菱商事が50.0%保有)や三菱食品(三菱商事が60.9%保有)が親子上場解消銘柄として取り沙汰され始めた。
キヤノン傘下のキヤノン電子(キヤノンが53.3%保有)やキヤノンマーケティングジャパン(同58.4%保有)、信越化学工業の子会社、信越ポリマー(信越化学工業が52.0%保有)は、この手の話が出るたびに候補として挙げられる。
マックスバリュ九州(現イオン九州)、マックスバリュ東海、マックスバリュ西日本の3社はイオン系の地域食品スーパーである。
GMOグループは親子上場解消に逆行
GMOインターネットは子会社、孫会社の上場作戦を進めている。7月、クレジットカードなどの対面決済サービスを手掛けるGMOフィナンナンシャルゲートをマザーズ市場に新規公開した。これでGMO銘柄は10社になった。親会社のGMOインターネット、ネット決済のGMOペイメントゲートウェイ、ネット証券やFX取引のGMOフィナンシャルホールディングス、GMOクラウド、GMOペパボ、GMOメディア、GMOリサーチと続く。GMO TECH、GMOアドパートナーズもある。
グループの総帥、GMOインターネットの熊谷正寿会長兼社長は「我が道を行く」だ。グループ企業は利益をあげていて株価も高い。株主には「きちんと報いている」との思いがある。「形式よりも実質でガバナンス(企業統治)を機能させている」との自信が見え隠れする。
弱点があるとすれば親会社、GMOインターネットの株価が子会社、孫会社に比べて相対的に安いことだけといわれている。子会社、孫会社が魅力的なら、わざわざ親会社の株式を買う必要がなくなる。
キオクシアHDの上場は東芝の株価の刺激材料になるのか
親子上場も絡み、市場の関心が高いのが、東芝が41%保有する半導体大手、キオクシアホールディングス(旧東芝メモリホールディングス)。東芝は2018年6月、半導体子会社だった旧東芝メモリを日米韓企業連合に約2兆3億円で売却したと発表していたが、今年10月6日、キオクシアは東証1部に新規上場することが決まった。時価総額は2兆円を超える大型上場となる。
米ベインキャピタルが主導する日米韓の投資グループや東芝、HOYAが総額で最大2929億円の株式を売り出す。ベインなど投資グループの保有割合は48%(従来56%)に低下。東芝は32%(同41%)となる。東芝は上場後、段階的に保有株を売却して「物言う株主」を黙らせるための株主還元の原資とする。
キオクシアの上場は、東芝の株価に良いインパクトを与えることになるのだろうか。
(文=編集部)