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「相馬勝の国際情勢インテリジェンス」

中国経済、本当に崩壊危機の様相…失業者2億人、企業債務がGDPの2倍、デフォルト多発

取材・文=相馬勝/ジャーナリスト
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中国・人民大会堂(「Wikipedia」より)

 新疆ウイグル自治区の人権問題をめぐって、欧米諸国が相次いで対中制裁に乗り出している。今のところは中国当局者らへの制裁にとどまっているが、今後対立がエスカレートすれば、同自治区産の綿花などの輸入禁止にとどまらず、中国製品へのボイコットや金融制裁などに拡大する可能性もある。ただでさえ中国経済の実態は思わしくないだけに、影響が深刻化することは確実だ。

 中国はさきの全国人民代表大会(全人代=国会に相当)で、今年の経済成長率の目標を6%以上とする一方で、今年から始まる5カ年計画では成長目標を具体的な数字で示さなかった。これまでは必ず具体的な数値目標を明らかにしていただけに、極めて異例の対応だ。

 中国政府は「成長率の高さではなく、経済の質と効率を重視しているため」と説明しているものの、先行きに不透明な要素を抱えているため数字を出したくても出せなかったとの見方が広がっている。

 なぜなら、中国経済は深刻な構造問題を抱え、綱渡りの状況が続くことになりそうだからだ。最大の課題は失業問題だ。昨年来の新型コロナウイルスの感染拡大により、経営基盤の弱い中小企業が倒産し、個人事業主が職を失い、約2億人が失業状態にあるとの統計が発表されている。1年間に2億人は極めて深刻な数字だ。

際立つ中小企業の苦境ぶり

 中国は米中貿易戦争で2019年に景気が大きく減速し、中小企業の苦境ぶりが際立っていたが、20年以降は新型コロナウイルスの感染拡大が追い打ちをかけた。米国ピーターソン国際経済研究所は、20年1~6月に中国全体の6%にあたる約230万社が倒産したと分析しているほどだ。

 この対策として、今年の全人代では、人員削減を行わない企業への税制・金融面での支援、高度な技能をもつ人材の育成拠点の増強を打ち出すなど、雇用の維持や新たな雇用創出に懸命となっている。失業者が増えれば、共産党指導部への不満が強まりかねないからだ。

 だが、中国の去年1年間の小売業の売上高は前年より3.9%も減少したほか、中国の財政収入もマイナス3.9%と官民とも回復は道半ば。中国の財政収入は前年比11.5兆円のマイナスとなっている。

 その一方で、コロナ対策の巨額財政出動が不動産市場で投機的な行動を後押しし、住宅価格が高騰しており、政府の幹部も「バブルの傾向が比較的強い」と警戒感を示しているほどだ。

 中国の企業債務残高も急増している。国際決済銀行(BIS)によると、中国の企業債務残高は08年末の31兆元(約480兆円)から18年末の136兆元(約2100兆円)へ4倍超に膨らんだ。企業債務残高の対国内総生産(GDP)比は98%から152%まで上昇し、その債務急膨張の様相はバブル期の日本と類似する。

 さらに2020年には、企業は業績不振が続いて借金を膨らませ、その総額はGDPの2倍以上に達している。中国国家統計局が今年2月28日に発表した公式為替レートをもとに計算したドル建てのGDPは前年比3.0%増の14兆7300億ドル(約1550兆円)となっているので、GDPの2倍となると、約3100兆円という巨額な数字となる。中国企業は、まさに借金まみれというほかはない。

 このようななか、80社以上の国有企業が借金を返せない、いわゆるデフォルトに陥ったと伝えられている。国有企業の借金は政府が保証するという暗黙の了解があるとみられていただけに、相次ぐデフォルトの動きは、経済界に大きな衝撃を広げている。

日本との関係強化

 中国の国内経済が悪化するなか、中国指導部は日本との関係強化を急いでいる。沿海部の大連や青島、天津、上海、蘇州のほか、西部の成都といった全国の6主要都市では、日本企業を誘致するためのモデル地区を建設する動きが進んでいる。最新の技術やノウハウを取り込み、地域の雇用拡大につなげたいとの思惑が見え隠れする。

 日本企業も中国の巨大市場は大きな魅力だが、中国に技術が流出する可能性は捨てきれない。とくに軍事転用可能な技術の流出は米国が極めて警戒するところであり、日本企業はおいそれと中国側の誘いに乗れないとの事情もある。

 また政治的な問題も多い。中国の巡視船の武器使用などを合法化する「海警法」が全人代の直前に施行されており、日本の沖縄県尖閣諸島周辺で領海侵犯を繰り返す中国の巡視船がますます威嚇的な行動に出てくるとの懸念も出ているなかで、日本企業にとって、対中進出は極めてリスキーな選択といえる。

 特に、本稿の冒頭に述べたように、新疆ウイグル自治区の人権問題をめぐって、欧米諸国が相次いで、対中制裁に乗り出しているのに加えて、日本の同盟国の米国と、中国との関係は極めて険悪な状態であり、日本側は当面、極めて慎重な姿勢をとらざるを得ないだろう。

(取材・文=相馬勝/ジャーナリスト)

相馬勝/ジャーナリスト

相馬勝/ジャーナリスト

1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。

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