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たかぎこういち「“イケてる大先輩”が一刀両断」

元アンノン族の60~70代シニア向けアパレル、業界の常識崩れる…無限の可能性

文=たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表、東京モード学園講師
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「Getty Images」より

「人生100年時代」が到来し、アパレル市場も大きく変化している。シニア世代と呼ばれた60~70歳代以上の意識や好みが急速な変化を遂げつつある。

 スタッフサービス・ホールディングスが2021年6月に実施した調査では「65歳以上も働いている」と考える人は73.6%にのぼった。70歳までの就業機会確保もいずれ義務化されるであろう。

 また、一般社団法人日本家族計画協会家族計画研究センターが発表したジェクスジャパン・セックスサーベイ2020によると、2017年度調査では浮気・不倫経験者は男性37%、女性24.4%であったのに対し、20年度は男性67.9%、女性46.3%とどの年代も倍増(サンプル数は5000以上)。恋愛とファッションの親和性は深いことが知られているが、今のシニア層は日本の高度成長期、バブル時代を謳歌した世代である。彼らが心から望むアパレルマーケットの需要が生まれている一方、供給側がそれに十分に対応できているとはいいがたい。

 出版不況の現在でも、シニア女性向けファッション誌が堅調に販売実績を伸ばしている。彼女たちは昔取った杵柄とばかりに“元アンノン族”として思い切り楽しんだ青春時代を取り戻したかのようにアクティブである。

 少子高齢化が進むなかで暗い未来が語られることが多いが、本当にアパレル産業はオワコンなのであろうか。今回は違った視点から、ポテンシャルに満ちた新市場を掘り下げてみたい。

1.新しいアパレル市場開拓に向かう弊害

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『アパレル業界のしくみとビジネスがしっかりわかる教科書』(たかぎこういち/技術評論社 )

 繊研新聞社の推計によれば、コロナ禍の直撃を受けた2020年の国内アパレル市場規模は前年比2桁減の8兆3451億円であった。過剰が問題となっている供給数量は、過去20年で最低の35億7279点と前年比10.3%減となった。1点当たりの価格も3.2%低下したが、これは比較的高額なコートやスーツの購入減によるもので、家計消費支出も5.3%減となった。

 昨今のアパレル業界への評価は、バイアスがかかっている。少子高齢化もあり、さも衰退産業であるような論調が主流だが、視点を変えて考えてみたい。

 日本生産性本部によると、2019年の日本の一人当たり労働生産性(就業者一人当たり付加価値)は8万1183ドル(824万円)。韓国やニュージーランドとほぼ同水準。名目ベースでは前年を3.4%上回ったが、順位でみるとOECD加盟37カ国中26位で、1970年以降もっとも低くなっている。製造業に限ればOECD 加盟国中16位となる。

 ファッション産業の生産性もこの順位を大きく上回っているとは考えにくい。原料から製品に至るまでの多重につながる糸・生地の生産、縫製、流通、小売りの各段階では改善すべき点が多く存在する。ここには、問題解決による伸びしろがあると考えられる。各段階をつなぐプラットフォームができれば、生産性が大きく向上する。

 たとえば、従来もっとも時間とコストがかかっていたデザイン画から最終製品サンプルまでの開発期間が、DX(デジタルトランスフォーメーション)により画面上で可能となりつつある。3DCAD技術、素材のスキャン技術の向上などで実用化はほぼ見えてきた。これにより、従来の1年後に販売される商品をつくるというギャンブルビジネスからの脱却は可能となる。 

 従来のアパレル業界で最大の問題点は、見込み生産とシーズンごとの新商品供給を低成長期にも続けてきたことだ。手元の在庫は積み上がっても、新規商品を市場に投入し続けている。同じような売れ筋を追加生産で追いかけ、最後は在庫処理で価格競争に陥る。こうした問題点がDXにより解決されつつある。

 また、年々製品単価の低下が続いていたが、今年に入って以降の世界的な原材料の値上がり、パンデミックや中国における停電、人件費アップなどによる加工賃の上昇で、原価上昇は確実になっている。コストの値上げはそのまま小売価格の値上がりにつながる。価格の値上がりはこれから本格的に始まる。

2. 新アパレル産業への変貌と未来

 川上、川中と呼ばれる生産のサプライチェーンがDXにより効率化され無駄がなくなれば、コストダウンが実現できる。これから、ますます求められるパーソナライズ化への制作対応も可能となる。少量生産も可能となり売れ残りがなくなれば、販売定価の適正化も図れる。「つくって売る」から「売ってからつくる」が主流になり、売れた数だけの生産ならば、値引き・返品のない製品づくりで現在の膨大な破棄が防げる。

 新しいアクティブシニア層へは、お洒落で楽で安心して着用できる商品の開発を、顧客と継続的に共創することを基本とすべきだ。たとえば、通常の下着と見た目が変わらないシニアメンズ向けの尿漏れ対策パンツは、発売以来すでに50万枚を突破している。開拓できるマーケットは未曽有だ。価格的にもリーズナブルで日常生活を心から楽しめるファッション需要は決してなくならないが、体型は変わっても新しい価値意識を持つアクティブシニアに向けた商品開発は、現時点では十分とはいえない。

3.まとめ

 20年の総務省発表によれば、個人におけるスマートフォンの保有率はすでに67.6%で、シニア世代でもSNSによるコミュニティづくりが広まっている。ファッションの関わる領域は拡大を続けており、グッチはゲーム業界とのコラボに乗り出している。アンチエイジングにも着飾るということは最高の効果がある。アパレル業界は、着替えるだけで感情が高揚するファッションの素晴らしさを発信していくべきである。

 生産段階、販売段階のDX進化が進み、アパレル産業が再び高い生産性と利益率を謳歌できる未来が待っていると確信する。

(文=たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表、東京モード学園講師)

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『アパレルは死んだのか』(たかぎこういち/総合法令出版)

たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表/東京モード学園講師

たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表/東京モード学園講師

カギ&アソシエイツ 代表/スタイルアドバイザー/コンサルタント(ファッション視点からの市場創造)/東京モード学園ファッションビジネス学科講師

1952年、大阪生まれ。奈良県立大学中退。大阪で服飾雑貨卸業を起業。22歳で単身渡欧後法人化代表取締役就任、1997年香港に渡り1998年、現フォリフォリジャパングループとの合併会社取締役に就任。オロビアンコ、マンハッタンポーテージ、リモワ、アニヤ・ハインドマーチなど海外ファッションブランドをプロデュースし、日本市場の成功に導く。また、第1回東京ガールズコレクションに参画。米国の有名ファッション展示会「d&a」の日本窓口なども務めた。時代に沿ったブランディング、MD手法には定評がある。2013年にファッションビジネスのコンサルティング会社「タカギ&アソシエイツ」を設立。著書に『オロビアンコの奇跡』『超入門 日・英・中 接客会話攻略ハンドブック(共著)』(共に繊研新聞社)、『一流に見える服装術』(日本実業出版社)、『アパレルは死んだのか』(総合法令出版)『アパレル業界のしくみとビジネスがしっかりわかる教科書』(技術評論社)などがある。
コンサルタントのタカギ&アソシエイツ

Instagram:@kohichi.takagi

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