日本電産が工作機械事業に本腰を入れる。三菱重工工作機械(現・日本電産マシンツール)を8月に買収したのに続き、中堅工作機械メーカーで創立100年あまりの老舗OKKを買収する。OKKが実施する第三者割当増資を引き受ける。株式の取得額は54億円で、出資比率は67%となる。2022年1月をめどに子会社にする。OKKは調達した資金で老朽化した兵庫県伊丹市の工場を建て替える。
OKKは自動車関連向けの中小型マシニングセンター(MC)を主力とする。日本電産マシンツールは大型工作機械に強みがあり、両社を傘下に置くことで、中小型の汎用機の製品のラインナップに厚みを増し、総合的な提案力で勝負できるようになると説明する。
大手工作機械メーカーが海外で売り上げを伸ばすなか、OKKは国内が中心で、これが結果的に業績の悪化を招いた。OKKは最盛期には売上高436億円(1991年3月期)、営業利益58億円(07年3月期)をあげたが、グローバル化に失敗し、売り上げは急減。新型コロナ前の20年3月期の売り上げは213億円、営業利益は1億円、最終損益は91億円の赤字に転落した。
新型コロナ禍の影響が色濃く出た21年3月期には、棚卸資産の過大計上による不適切会計が判明し、決算発表と有価証券報告書の提出が大幅に遅れた。9月、東京証券取引所はOKKを監理銘柄に指定。10月12日までに有報を提出できなければ上場廃止になる可能性があった。10月6日に発表したOKKの21年3月期連結決算は、売上高が前期比43%減の120億円、営業損益段階で27億円の赤字に転落、最終損益は引き続き24億円の赤字だった。
22年3月期の売上高は157億円、営業損益は3億円の赤字、最終損益は11億円の赤字と、3期連続の最終赤字になる見込み。過去の決算に遡って棚卸資産を修正した結果、17年3月期から21年3月期までの有価証券報告書などの数字を修正した。一連の責任をとり、11月10日付で浜辺義男社長が退任。森本佳秀代表取締役常務執行役員が新社長に就任した。10月、監理銘柄を解除されたが、経営再建が急務である。そこで自主再建を断念し、提携先・スポンサーを探していたところ、日本電産から声がかかった。
日本電産は永守重信会長が買収した企業の会長になり、経営改革に取り組む手法で、短期間のうちに業績をV字回復させることで知られている。日本電産流の徹底したコスト削減手法で、OKKも早期の黒字化に取り組む構えだ。今後は日本電産マシンツールの海外工場を活用し、OKKも海外の生産比率を高める方針だとしている。
DMG森精機に挑戦状
11月30日、東京株式市場で日本電産の株価が一時、前日比635円(5%)高の1万3365円まで急上昇した。変種のコロナウイルス、オミクロン株の感染の広がりが懸念され、日経平均株価など市場全般が大きく下げるなかで、日本電産は「高性能モーターの成長性が短期的な景気変動の影響を受けにくい」(エレクトロニクス担当のアナリスト)との前向きな判断で株価が上昇した。終値は270円(2%)高の1万3000円で、売買代金は前日の2倍超となった。
日本電産は成長分野と位置づける電気自動車(EV)やロボット用減速機などの生産の増強を進めている。EV用モーターの工場を中国と北米に新たに建設することを検討している。工作機械事業の今後の展開にも株式市場は強い関心を持っている。2月、三菱重工工作機械の買収を発表し、工作機械業界に新規参入。8月に買収手続きを完了して、OKK獲りに乗り出した。
注力しているEV向けの部品を内製化するのに工作機械は不可欠だ。歯車工作機械に強く、この分野で世界3強の一角を形成する三菱重工工作機械を買収したのが、その第一歩だ。永守会長がマシンツールに乗り込んで統合作業を行い、日本電産流の徹底したコスト管理手法を導入すると、数カ月後に黒字化したことが自信につながったようだ。「工作機械はビジネスチャンスになる」と直感し、OKKを買収することを即決したという。
日本電産は26年3月期に工作機械事業全体の売上高を1000億円の大台に乗せる計画だ。27年3月期にはM&Aも含めて同事業の売上高を2500億円と2倍以上にする。「1番以外は皆ビリ」というのが永守会長の持論だ。目標の2500億円は、工作機械業界第3位の牧野フライス製作所(22年3月期の売上高は1720億円の見込み)、第4位のオークマ(同1670億円)を上回る。
業界2位のヤマザキマザックは上場していないため年商は不明だが、トップのDMG森精機(21年12月期の売上高予想は3800億円)を意識した目標設定であることはいうまでもない。永守会長は将来的に工作機械の売り上げでトップを視野に入れているのかもしれない。永守会長が率いる日本電産の工作機械業界への殴り込みは、「最大手のDMG森精機への挑戦状」(工作機械業界の首脳)と受け取る向きが多い。
(文=編集部)