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日本の製薬業界、コロナ完敗、ワクチンも治療薬もゼロ…塩野義製、データ不足の指摘も

文=Business Journal編集部
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塩野義製薬のHPより

「コロナ完敗」――。

 製薬業界の関係者の間で、こんな自虐的な言葉が飛び交っている。新型コロナウイルスの世界的流行が始まってから3年目になるのに、日本はいまだに感染予防に有効なワクチンも治療薬も開発できていないからだ。

 そこで官民挙げて治療薬とワクチンの開発に取り組む。2月7日、岸田文雄首相は衆院予算委員会で塩野義製薬が開発中の新型コロナウイルスの飲み薬について「臨床試験で安全性や有効性が確認された場合には、条件付早期承認制度も含め、あらゆる手法の活用を視野に迅速に審査したい」と語った。首相は「国産の経口治療薬の開発は大変重要だ」と訴えた。

 条件付き早期承認制度は、治験が難しい医薬品について、発売後に有効性や安全性を評価する条件で承認する制度。塩野義のコロナウイルスの飲み薬について、数百人の解析で有効性が確認されれば早期の承認を検討する方針だ。

 2月25日、塩野義は新型コロナウイルスの飲み薬について、厚生労働省に製造・販売の承認を申請した。審査を迅速に進める条件付き早期承認制度の適用を求めている。現在、医薬品医療機器総合機構(PMDA)が審査している。

 この飲み薬が承認されれば、軽症、中等症患者向けとして、米メルク製、米ファイザー製に続いて国内3つ目の飲み薬となる。国内製薬企業としては初めてだ。重症化のリスクのある軽症者(メルクは18歳以上、ファイザーは12歳以上)が投与の対象。

 後藤茂之厚生労働相は3月25日、閣議後の記者会見で、塩野義が開発した飲み薬について「薬事承認されれば、まず100万人分を確保し、その後も一定数を調達する」方針を明らかにした。この発表を受けて、3月25日の東京株式市場で塩野義株は一時、391円高の7955円となり、株価は3日間続伸した。

5月以降の商用の供給を目指す

 塩野義製の飲み薬は錠剤タイプで、細胞内に入ったウイルスの増殖を抑える働きがある。感染初期に1日1回、5日間服用する。12歳以上、無症状・軽症・中等症の感染者を対象として臨床試験を進めており、承認されれば、メルク、ファイザーの治療薬に比べ、幅広い感染者に投与できると感染症の専門家はみている。

 塩野義は21年9月、最終治験を開始。変異株のオミクロン株の感染拡大後の1~2月に428人を対象にした治験を行った。薬を服用するグループと偽薬のグループを比較し、発症から5日以内に飲み薬を服用した場合、9割以上の人から3日投与後には感染力のあるウイルスが検出されなくなった。オミクロン株に特徴的な鼻水やせきなどについても、「明らかな改善効果が認められた」としている。

 塩野義の飲み薬は「米メルク製よりカプセルが小さく、高齢者でも飲みやすい」(医師)といわれている。3月4日、塩野義は「開発を進めている新型コロナウイルスワクチンの追加接種で、米ファイザー製ワクチンと同等の中和抗体量の上昇を確認できた」とする治験の中間報告を発表した。

 治験は東京品川病院(東京・品川区)で実施した。ファイザー製を2回接種してから6カ月以上たった20歳以上の成人約200人を対象に、3回目に塩野義製を打った場合とファイザー製と打った場合とを比べた。ウイルスの感染を防ぐ中和抗体の量や、中和抗体の量が一定程度上昇した人の割合を評価し「効果がファイザー製に劣らないことを確認した」という。

 塩野義の手代木功社長は会見で「5月以降に商用の供給が始められるよう準備している」と語った。ワクチンは岐阜県の工場で生産する。生産ラインの増強により年内に最大年1億2000万本の生産体制を整える方針だ。追加接種向けであれば1億人分以上をカバーできる。当面、日本だけに供給する。

塩野義は救世主となれるのか

 コロナワクチン・コロナ治療薬とも、日本の製薬会社は海外勢に後れをとった。治療薬では、武田薬品工業が20年3月以降、感染から回復した患者の血液成分をもとに治療薬の開発を進めてきたが、有効性が確認できず断念。第一三共や小野薬品工業も既存薬の転用を目指したが開発を中止した。

 富士フイルムホールディングスは抗ウイルス薬「アビガン」の転用を目指した。安倍政権(当時)も後押ししたが、転用は難航。米国などでの治験では有効性を確認できなかった。従来の変異株と比べて重症化率が低いオミクロン型の拡大で、「アビガンの投与による有効性の検証が難しくなった」として、3月に国内治験での新規投与を中止した。岸田政権になり、自民党の厚労族からも「科学的根拠のない未承認薬を国が買い上げて、ズルズル使い続けるのは問題だ」との声が上がり始め、治験が打ち切られた。

 ワクチンでは日本勢は完敗だ。世界保健機関(WHO)が緊急承認するワクチン10種類のなかに日本企業のものは入っていない。塩野義は4月中の承認申請を目指す。第一三共と明治ホールディングスの子会社・KMバイオロジクス(熊本市)は22年中の実用化を視野に入れている。飲み薬は自宅療養でも使いやすく、医療機関の負担軽減につながる。

 政府は21年12月、承認済みの米メルク製を160万人分、今年2月に承認された米ファイザー製を200万人分調達する。塩野義は飲み薬候補について4月以降に年1000万人分の生産体制を整え、承認されれば速やかに出荷を開始するとしている。

 塩野義が飲み薬・ワクチンともに実用化の先陣を切るのか。株式市場の評価も高く、野村證券は投資判断を3段階で最上位の「バイ(買い)」を継続、目標株価を9000円に引き上げた。年初来高値は21年11月25日の8439円である。

 塩野義は、コロナワクチンは23年3月期に300億円、24年3月期には600億円の売上高を見込んでいる。塩野義が“期待の星”であることは間違いないが、感染の専門家のなかに「治験データが不足している」との指摘があるのも事実である。治験は1000人超で行うのが普通だが、塩野義のケースでは飲み薬の治験は428人、ワクチンの治験は200人にすぎないからである。

(文=Business Journal編集部)

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