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「JTBって何?」JTBを知らない大学生…社会的背景と就活生の現実

文=A4studio
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JTBのHPより

 3月、とあるツイッターユーザーが呟いた内容が話題を集めた。投稿者が慶應義塾大学の2年生から4年生までの計4人で就活の話をしていた際、経済学部3年生の男子学生が「JTBって何ですか?」と口にしたのだという。ジョークではなく、“眼中にない”という意味でもなく、なんとその学生はJTBという企業を知らなかったのだ。

 JTBといえば、旅行代理店の大手として知られるだけでなく、マイナビの「大学生就職企業人気ランキング」で1992年から計20回1位に輝いたことがある人気企業。2019年にも1位を獲得している。それゆえ、該当ツイートには“隔世の感”を訴える声が多く寄せられた。

 そこで今回は、転職サイト「リクナビNEXT」で編集長を務めていた転職コンサルタント・黒田真行氏に取材。Z世代の就活生たちの間で今、JTBがどれほどの人気を保っているのか、そして新卒学生に人気の企業の変遷などについて解説してもらった。

JTBの新卒人気を支え続けた、80年代“旅行ブーム”の残り香

 まず、JTBはいつから人気を博していたのだろうか。

「1970年代から80年代に始まった旅行ブームの影響が大きいでしょうね。さらに、1986年に政府主導で5年間、日本人の海外旅行者数を1000万人にすることを目指す『テン・ミリオン計画(海外旅行倍増計画)』が実行されたことで、業界人気は一段と活性化しました。この頃から若者、とりわけ大学生たちの間で、就職して自由な時間がなくなる前に低予算で個人旅行を楽しむという流れが活発になりました。こうしたブームの影響もあり、自分が好きな旅行に関わる仕事に就職したいという希望も増えていったものと思われます」(黒田氏)

 そうした旅行ブームの影響で新卒学生の就職先としても人気となっていったということか。

「確かに当初はそうだったと思います。しかし、JTBが学生から長らく人気があったのは、単に“企業が若者を魅了していたから”とは言い切れない部分があります。JTBのような旅行代理店を利用するメインの層は、金銭的に余裕のある中高年や高齢者です。バックパッカーブームの頃から若者たち、とりわけ文系の学生たちは、エイチ・アイ・エスなどの旅行代理店経由で格安航空券を購入したり、青春18きっぷを使ったりして、コストをかけない旅行を心がけていました。

 ですからJTBの人気が長く続いていたのは、JALやJRと同様、旅行関連業界の代表格としてのブランド力と、親世代からの“安定企業に就職したほうがいい”というアドバイスが浸透していた結果ではないかと感じています。新卒学生の就職先選択には、親の価値観がいまだに色濃く影響しています。

 実際、キャリタス就活というサイトが発表している新卒学生の人気企業ランキングでは、損保ジャパンが1位、東京海上日動火災保険が2位、三井住友海上火災保険が4位となっており、JTC(ジャパン・トラディショナル・カンパニー)とも言われる“重厚長大”系の企業がいまだに人気を博しています」(同)

 だが、こうした企業は意外と離職率が高いと黒田氏は続ける。

「しかし、好きな旅行代理店に就職しても、団体旅行の営業やプランニングを自分でやりながら、添乗などの仕事もやらなければいけないとか、休日や給与が他業界より少ないなどの理由で、離職率が高い傾向があります。また、いったん社会に出た後で、仕事選びを仕切り直す転職活動における人気企業ランキングでは、グーグルやLINE、サイバーエージェントといったIT系の企業が上位を占めています。これは学生の就職活動時代と社会人になってからでは、見える風景にいかに大きな違いがあるかを示しています」(同)

新卒人気とは裏腹に下降の道を辿るJTB…学生人気への影響は?

 離職率は高いとはいえ、これまで新卒人気が高かったJTBだが、今回話題となった慶應大生のように、今やその知名度は低下傾向にあるのだろうか。

「さすがにJTBをまったく知らない学生が大多数になっているということではないと思います。ですが、傾向として“旅行代理店を使ったことがない若者が増えている”というのはあるでしょう。最も大きな原因は、やはりインターネットの普及がにあると思います。エクスペディアやトリバゴ、トラベルコ、といった旅行比較サイトはいまや数多くありますので、特に若い世代ではわざわざ旅行代理店を使うという人は格段に減っています。

 もちろんJTBも現在インターネット事業を進めていますが、どうしても既存事業のシェアが大きく、リアルほどの存在感は示せていない印象があります。

 また、JTBはコロナ禍の影響もあり、21年3月期に過去最大となる1051億円の最終赤字を記録してしまい、大規模なリストラを敢行したという報道も記憶に新しいところです」(同) 

不景気を生き抜く新卒社会人に求められる“今を見るスキル”

 最後に、現在の学生の就活事情を総括していただいた。

「Z世代は金銭面で潤うといった物理的報酬よりも、精神的報酬を優先する傾向がありますが、日本経済はいま下降局面に入っています。そのため、安定した物理的報酬を求める学生もまだまだ多いのが現状。しかし、現在のような“サバイバルの時代”において、親世代が体験してきた価値観で、JTC系の斜陽期と言ってもいい業界や、企業に就職を目指す学生が多い状況には不安を感じざるをえません。70歳まで働かないといけないと言われる時代ですから、自分の強みを生かして長く働いていける企業の条件を、自ら問い直すタイミングに来ているのかもしれません」(同)

 慶應大生の発言の背景には、人気に陰りが見えてきたJTBがそもそも就職先として視野に入っていなかったからなのかもしれない。日本の企業と学生の未来はどこへ向かうのだろうか――。

A4studio

A4studio

エーヨンスタジオ/WEB媒体(ニュースサイト)、雑誌媒体(週刊誌)を中心に、時事系、サブカル系、ビジネス系などのトピックの企画・編集・執筆を行う編集プロダクション。
株式会社A4studio

Twitter:@a4studio_tokyo

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