人気ラーメンチェーン「AFURI」を運営するAFURI株式会社が、同社が商標登録している「AFURI」の商標権を侵害しているとして、日本酒醸造・販売の吉川醸造株式会社を提訴した。吉川醸造は「雨降(あふり)」という日本酒の銘柄を製造しているが、同社に対しAFURI社より「”AFURI”と記載した当社商標の使用はAFURI社の著名性にフリーライドしその商標権を侵害するものであり、商品を全て廃棄処分すること等を要求する」旨が書かれた書面が送られてきたという。AFURI社は「吉川醸造社には当社側のお願い、申し入れが聞き入れられず、やむなく最終的な判断を司法の場に求めることになりました」としているが、双方の主張には食い違う部分もある。事業を展開する上で、どの企業も直面する可能性がある商標をめぐる紛争。専門家の見解も交え深掘りしていく――。
1912年(大正元年)創業の吉川醸造は神奈川県伊勢原市神戸(ごうど)の地に築蔵して100年以上の歴史を持つ酒蔵で、丹沢大山の古名「あめふり(あふり)山」と、酒造の神を祀る大山阿夫利神社にちなんで命名した「雨降(あふり)」を醸造・販売している。
一方のAFURI社は2003年に東京・恵比寿に1号店「AFURI 恵比寿」をオープンさせ、柚子を使用した「柚子塩らーめん」が評判を呼び店舗数を拡大。現在、国内・海外で約20店舗を運営するほか、通販サイトの運営や日本酒事業、クラフトビール事業なども手掛けている。ちなみにAFURIという名称も「神奈川県丹沢山系の東端に位置する大山(通称・阿夫利山)に由来」(同社HPより)する。
紛争の発端となったのは、AFURI社が日本酒事業の進出のために2020年に日本酒に関する「AFURI」の商標登録を取得したことだった。その後、「吉川醸造社が、日本酒に『AFURI』を使用して販売している事実が発覚」(AFURI社プレスリリースより)し、AFURI社は吉川醸造が自社の商標権を侵害していると主張して複数回にわたり話し合いを行ったものの合意に至らず、AFURI社は提訴に踏み切った。
「商品廃棄の要求」めぐり食い違う見解
両社の主張はいくつかの点で食い違っている。吉川醸造は22日付プレスリリースで、昨年8月にAFURI社から送付された文書について「商品を全て廃棄処分すること等を要求するものでした」と説明。一方のAFURI社は今月26日付プレスリリースで
「今後『AFURI』の使用を中止するのであれば、在庫の販売は認めていたのであり、吉川醸造社に商品の廃棄を求めていたわけではありません」
と主張している。しかし昨年8月にAFURI社から吉川醸造に送付された文書の内容を確認してみると、次のように記載されている。
<既に貴社が取引先に納品した被通知人商品を即刻回収すると共に、その被通知人商品を直ちに廃棄処分にすることを求めるものです。既に貴社が在庫として抱えている被通知人商品も同様です>
また、AFURI社はプレスリリースで
「再三に渡って日本酒への『AFURI』の使用の中止を真摯にお願いしてまいりました」
「吉川醸造社には当社側のお願い、申し入れが聞き入れられず、やむなく最終的な判断を司法の場に求めることになりました」
と説明。AFURI代表取締役の中村比呂人氏はFacebook上で、
「自分からも『お互いに取っても地域にとっても、なるべくみんながハッピーになれるかも』と思うアイディアを沢山出して何度か吉川醸造の合頭社長さまとじっくり話し合った」
「共にタッグを組んで世界に打って出ましょう!などなど、様々な提案をしましたが、結局受け入れては頂けず平行線で終わってしまって」
と説明しているが、これについて吉川醸造代表取締役の合頭義理氏は次のようにいう。
「あくまで私の視点からですが、かなりニュアンスが異なります」
一方のAFURI社に見解を問い合わせたところ、
「現在、弊社では各メディア様からの取材はご容赦いただいている状況です。会社としての公式な見解は、HPにプレスリリースとして掲載しておりますので、そちらをご確認いただければと思います」
とのことであった。
ちなみにAFURI社が昨年8月に吉川醸造に送付した文書内には、
<貴社における前記一連の行為は、当社の周知・著名な前記登録商標が獲得した業務上の信用にフリーライドするものであって、極めて悪質なものといわざるを得ません>
<不誠実な対応を取り続けられる場合には、当方としましては、法律上認められているあらゆる法的措置を取らざるを得ないことを申し添えておきます>
といった文面もみられる。中堅企業で法務を担当する役員はいう。
「ずっと昔から『あふり』という名前の日本酒をつくって販売してきた吉川醸造からすれば、ある日突然、見ず知らずのラーメン店から『AFURI』という表記を使うなと言われ、反発するのは当然だろう。ただ、AFURI社が商標を登録し、さらに商標登録後に吉川醸造が商品に『AFURI』という英語表記を使っているということなので、単純に法律的な話としてはAFURI社のほうに分があるということになってしまうのではないか」
先に登録された商標権が存在するかどうかを確認することはビジネスの基本
今回のAFURI社の行為をめぐってさまざまな声があがるなか、同社はプレスリリースで
「当社は、本業であるラーメン事業のみならず、他にもいくつかの事業を計画しており、その過程で必要に応じて商標登録を取得し維持を図っております」
「新事業への進出に際して、その分野であらかじめ商標登録を取得する行為は、必要なことです」
と説明しており、吉川醸造はプレスリリースで「AFURI社では現在『阿夫利』『AFURI』で構成される商標を、『ラーメン』以外に150種類以上の物品・役務について取得しております」としているが、ビジネス・法務の観点からみれば、AFURI社の行為は理にかなったものなのだろうか。山岸純法律事務所代表の山岸純弁護士はいう。
「この問題、吉川醸造側が『AFURIから訴えられた』と触れ回ったのが先ですよね? まず、この点がやや解せません。そもそも、新商品やサービスを始めるにあたって、商品などの名称やロゴについて『他人の足』を踏むことがないように、先に登録された商標権が存在するかどうかを確認することはビジネスの基本です。まして、いわゆる街の酒蔵レベルではなく、それなりの大企業(の子会社)であるわけですから、今回のトラブルは、吉川醸造側によるビジネスにあたっての凡ミスと考えられます。
訴訟が係属するまでの双方の弁護士による協議の中身はわかりませんが、吉川醸造側は先使用権(ウチはソチラの商標の登録前から使っていたという抗弁)の主張や、『阿夫利』などは地名由来であることや一般名詞だからそもそも商標登録できないはずといった主張をしていたのかもしれません。これらの主張が正しいかどうかは、今後の訴訟の中で明らかになっていくものと思われます。
ところで、AFURI社は広い範囲で商標登録をしているとのことですが、実際に使用しているのであれば、自らの権利等に勤勉に行動している結果であって、何か責められるものではありません。また、商標法は『先に使っていた』という会社があれば保護されることになっておりますし、使っていない商標権は取消される場合もあるなど、とてもバランス良くできています。したがって、AFURI社が、やり過ぎ、と責められるようなことはないわけです。
世の中は、どちらかのサイドに立てば『かわいそう』『相手が悪い』という感情が沸き起こり、これが人ごとに異なるからややこしくなります。ややこしくならないように予めバランスをとっているのが『法律』です」
(文=Business Journal編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)