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大崎孝徳「なにが正しいのやら?」
革命的もっちり系フジパン「本仕込」、誕生の裏に「ランチパック」への屈辱的敗北?
それまでの工場生産では、一度生地の種をつくっておき、発酵させてから副材料を加える「中種法」という製法が採用されていました。中種法は、機械耐性に優れ、工場で大量生産を行う大手メーカーでは主流となっていました。
しかし、中種法でもっちり感を出すためには、添加物などを使わなくてはなりません。そのため、フジパンは本物志向にこだわり、ベーカリーと同じように一度に材料をこねてつくる「ストレート法(直捏法)」に挑戦します。ストレート法は機械での大量生産には向かないため、各メーカーが敬遠してきた製法でした。
当初は、焼き上がりの際に固さが均一でないなど、品質が安定しなかったそうです。しかし、フジパンは材料の水分量や配合の工夫だけではなく、ラウンダー(捏ねる機械)などの設備交換、工場内の温度・湿度管理まで徹底する大規模な変更を行いました。そして、2年以上の歳月をかけ、93年に「本仕込」は完成します。
完成した「本仕込」は、アルファ化度(でんぷんの中の糊化状態の割合)が他社製品より5%も高く、目指していた、もっちりとしたおいしさが実現できていました。
94年の発売以来、「本仕込」は人気商品として、現在に至るまで大きな利益を生み出しています。その理由のひとつは、素材へのこだわりや何か新しいものを加えたというレベルの差別化ではなく、設備交換をはじめとした大規模な変更を伴う新製法に挑戦したことにあります。そして、それを他社が簡単に模倣できなかったからです。
斬新なアイデアで先行して市場に投入したものの、他社に簡単に模倣され、市場を席巻されてしまった「スナックサンド」の教訓が、「本仕込」の差別化には生かされているのでしょう。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)
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