巨大NTTが復活するのか――。
NTTドコモが上場廃止になった2020年12月25日に開かれた総務省の有識者会議で、NTTはNTTドコモを完全子会社にした後の具体的なシナリオを明らかにした。まず21年夏をメドにドコモは長距離の固定通信やクラウドサービスのNTTコミュニケーションズ(コム)とソフトウェア開発のNTTコムウェアを子会社にする。現在、2社ともNTTが100%出資している。そして、22年春~夏頃に、ドコモやコムなどの機能整理を行うというものだ。
個人向け営業はドコモが中心となって展開。ドコモの法人向け事業はコムに一元化し、無線と固定通信を融合した新しいサービスを提供する。ドコモは携帯料金の値下げで巻き返しを急ぐ。
スマートライフと呼ぶ金融・決済やコンテンツ配信などについては、ドコモとコムが連携して拡大を目指す。両社の傘下に格安スマートフォン事業を展開するNTTレゾナントを加え、一体運営する。NTTはドコモを単なる携帯電話サービス会社からICT(情報通信技術)の総合企業に変貌させる。一連の再編でNTTを米GAFAに代表される巨大IT企業に対抗できるグループへと脱皮を図る。
次世代の通信規格6Gで「IOWN」の国際標準へ
NTTは18年8月、澤田純氏が社長に就任した。その1年後の19年10月31日、30年ごろの実用化が見込まれる次世代の通信規格6Gでソニーや米インテルと連携すると発表した。20年春に日本で商用化した5Gで後塵を拝した日本勢は、6Gでは“純血主義”を捨てて巻き返す。
5Gでは半導体技術で米クアルコム、基地局ではフィンランドのノキア、スウェーデンのエリクソンが多くの特許を持ち、規格作りを主導した。中国の華為技術(ファーウェイ)も技術力を高めて特許数が急増した。一方、日本企業は特許数で見劣りするなど主導権を握れなかった。
そうした反省からNTTは6Gで主導権を握るべく、光通信技術「IOWN(アイオン)」と呼ぶネットワーク構想を19年6月に発表した。IOWNは消費電力を100分の1にできる技術で、世界の通信大手も注目する。IOWNを使った回路基板が実現すれば、「スマホの充電が1年間不要になる可能性がある」(関係者)。
NTTの澤田社長は光通信技術で世界の覇者になる構想を抱く。その実現に向け、NTTグループの再編に拍車がかかる。IOWNを迅速に実用化するためだ。ドコモ、コムのネットワーク設備にIOWNを応用し、ノウハウを蓄積する。システム開発やソフト開発で人材が豊富なコムウェアを活用する。
IOWNを世界の標準規格にするためには莫大な研究開発費が必要になる。NTTの売上高に占める研究開発費の割合は2%。GAFAと呼ばれる、グーグルの親会社アルファベットは16%、アップル(7%)、フェイスブック(19%)、アマゾン・ドット・コム(13%)と比べても、その差は大きい。NTTもグループで研究開発のリソースを集約しなければ、GAFAにのみ込まれてしまう。
ライバルは東西NTTから光回線設備の分離を求める
NTTの前身は電電公社だ。1985年の民営化まで電電公社が通信市場を独占し、強大な購買力を誇った。総務省はNTTグループによる通信関連機器の共同調達を認める方針に転換した。規制緩和による調達コスト低減で、先端技術への投資やデジタル変革を促すことができるとしている。
NTTは総務省と歩調を合わせ、グループ再編をテコに次世代の光通信技術への投資を打ち出した。こうした「巨大NTTの復活」に競合他社は猛反発する。総務省は2020年12月3日、NTTによるドコモの完全子会社化をめぐり、他の通信会社との競争環境の公平性について検証する初会合を開いた。会合には、ソフトバンクの宮内謙社長、KDDI(au)の高橋誠社長、楽天モバイルの山田善久社長らドコモのライバルである携帯電話大手のトップが顏をそろえた。NTTからは北村亮太執行役員が出席した。
NTTが持つ光回線設備をどうするかが最大の論点となっている。電電公社時代の資産を引き継いだ東西のNTTが、携帯電話の基地局や通信センターでつなぐ光回線で75%のシェアを握り、携帯各社もこのインフラに依存する。5Gの普及で光回線設備の重要性が高まるなか、「ドコモとNTT東西が一体化されれば、競争が阻害される」との懸念が相次いで出された。
NTTの北村執行役員は、「あくまで5Gや次世代の6Gでの国際競争力を高めることや米巨大ITに対抗するのが狙いで、公正な競争に悪影響が生じることはない」と反論した。ソフトバンクは1月14日に開かれた有識者会議で、NTTの光ファイバー回線設備を切り離すといった「構造的な分離」を検討するよう求めた。KDDIも「ドコモとNTT東西のネットワークの統合は公正な競争の確保に支障を及ぼすことから、明確に禁止すべきだ」と主張する。
NTT東西から光回線設備を切り離して別会社にし、公平性を担保することができるのか。有識者会議は3月までに報告書をまとめる予定だ。
(文=編集部)