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西武HD再上場、なぜサーベラス誤算?公開価格引き下げで狂う出口戦略と、注目の次の一手

文=編集部
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西武HD再上場、なぜサーベラス誤算?公開価格引き下げで狂う出口戦略と、注目の次の一手の画像1西武HD傘下のプリンスホテルが運営する「ザ・プリンス・パークタワー東京」(「Wikipedia」より)
 米サーベラスにとって大誤算なのか、それとも想定の範囲内なのか。市場関係者は注目している。

 西武鉄道やプリンスホテルを傘下に持つ西武ホールディングス(HD)が4月23日、東京証券取引所に再上場する。この際に筆頭株主の米投資ファンド、サーベラス・グループは西武HDの保有株式を放出する予定だったが、これを中止した。サーベラスは当面、西武HD株式の35.45%を保有し続けることになる。

 西武HDが金融庁に提出した訂正臨時報告書によると、上場時の売り出し価格(公開価格)の前提となる仮条件は1株当たり(以下同)1600円から1800円に設定された。当初の想定価格は2300円だったから、2~3割引き下げたことになる。証券会社などが意見を聞いたところ、「JRや他の私鉄大手に比べて価格が高すぎる」と国内外の機関投資家は冷ややかだったという。正式な売り出し価格は4月14日に下限の1600円で決まった。

 西武HDが目論見書に記載した想定価格は2300円。想定価格ベースでの時価総額は7868億円と私鉄トップだったが、証券界からは「それほどの価値があるとは思えない。割高なのではないか」との声が数多く聞かれた。

 改定後の仮条件は1600円に下がり、これに基づくと時価総額は5474億円程度となる。東京急行電鉄(時価総額7700億円)、阪急阪神HD(同6900億円)、小田急電鉄(同6400億円)を下回り、京王電鉄や京浜急行電鉄とほぼ同じ水準に落ち着くとものとみられている。

 当初は、発行済み株式総数(3億4212万株)の23.6%の8085万株が市場に放出される予定だったが、サーベラスの方針転換により、売りに出されるのは日本政策投資銀行(保有比率4.4%)と農林中央金庫(同3.9%)の保有株の一部と、UBS証券、米金融大手シティグループの全保有株で合計2782万株(全体の8.13%)となる。サーベラスの持ち株比率は上場後も変わらない。

サーベラス、なぜ売り出し中止?

 サーベラスが売り出しを中止した理由は、売り出し価格に納得がいかなかったからだ。仮条件がサーベラス側の想定価格を下回り、手にする売却益が目減りする。仮条件の1600~1800円では、売りたくても売れないのだ。発行済み株式の35.45%を握るサーベラスは当初、15.5%分の5302万株を売り出すことにしていた。想定価格は1株当たり2300円で、想定価格で売却すればサーベラスは1219億円を手にする計算だった。

 サーベラスは出資分を含め累計1200億円を西武HDに投じており、当初の想定価格である2300円で西武HDが再上場を果たせば、投資分は全額回収できる算段だった。残る19.95%分の株式も売却すれば、さらに1500億円相当の儲けが出る見通しだった。

 だが、仮条件の下限である1600円で5302万株売り出せば、手元に入るのは850億円弱となってしまい、投資分を回収できない。

 そこでサーベラスは、上場と同時に売り出すのではなく、上場後の株価上昇を待つことにしたのではないか、との見方が市場では大勢だ。サーベラスは10月19日までは主幹事証券の同意なしには株式の売却ができない契約を結んでおり、この契約の解除後、西武HDの保有株を段階的に売却して、最終的には西武HDから撤退する方針を変えていない。

 新規上場の銘柄は上場直後が高値で、その後、株価は下落していくのが常だ。サーベラスが投資(1200億円)の元本割れが生じないためには、株価1000円が最低ラインとなる。900円程度にまで株価が下落すれば含み損が出る。サーベラスの西武HD株の平均取得価格は1000円強とみられているが、金融機関からの資金調達コストや投資家が求めるリターンを勘案すると、2000円は譲れない線となる。

 サーベラスに資金を出している機関投資家は、年15%以上のリターンを期待しているため、彼らを満足させるためにも、サーベラスはなんとしても2000円以上で売りたいと考えている。

 サーベラスは06年に西武HDに資本参加した。当初は、友好関係にあったが再上場する際の売り出し価格をめぐって両社は対立した。証券会社が算出したIPO(新規公開株)価格は1株当たり1000~1500円。より大きなリターンを得たいサーベラスの想定は同2000~2500円で、隔たりは大きかった。

 その後、紆余曲折を経て再上場することで合意し、上場の際の想定価格はサーベラスが望んでいた2300円となり、ハイリターンを得ることができるはずだった。それゆえ、仮条件が1600~1800円に大幅に引き下げられたことは、サーベラスにとっては大きな誤算である。

注目集める次の一手

 今後の関心は、西武HD上場後にサーベラスがどう動くかだ。焦点は、サーベラスが再上場時点で売り出す予定にしていた5302万株の行方。西武HD側が一番恐れているのは、同業他社にサーベラスが持ち株を持ち込み、相対取引で1株2300円に近い価格で売却することだ。JR東日本やJR東海は、西武HD株に興味を持っているといわれており、売り出し価格の仮条件が1600~1800円になったことで、両社もサーベラス側に売却価格の引き下げを求めるだろう。

 また、日本航空(JAL)や全日空(ANA)といったエアラインが西武HDの株式に興味を持っているという情報もある。

 サーベラスが15.5%分の株式を相対取引で同業他社に売却すれば、M&A(合併・買収)の期待から上場後の西武HDの株価が上昇するのは確実。そうなれば残りの株式を高値で売り抜けることができ、投資した資金を回収する可能性も高まる。

 サーベラスが効率の良い資金回収を目指すため、大がかりな手に打って出るのかという点に、市場関係者の注目は移った。
(文=編集部)

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