では、そのような「方向性ありき」の記事制作は、他の新聞社でも起こりうることなのであろうか。
「確かに新聞社ごとに会社としての主張の方向性があるので、そのようなことが起きる可能性は否定できません。しかし、どこの新聞社でも、特に企業不祥事関連のスクープ記事を掲載する場合、複数の人間で内容をチェックし、『こういう書き方のほうが確かにインパクトは強いけど、誤解を与えかねないのでもう少しバランスよい書き方をしたほうがよいのでは』などと議論して慎重に進めていきます。しかし朝日の場合、これまで連載『プロメテウスの罠』などで『反原発』『反東電』の一大キャンペーンを張ってきたことも影響し、とにかく『東電=悪』という方向性ありきで記事が書かれたのではないでしょうか」
同関係者によれば、今回取り消された記事を中心となって取材・執筆したのは、この『プロメテウスの罠』を担当した朝日特別報道部であり、その点が朝日として誤報を防げなかった理由でもあると分析する。
「同部は『プロメテウスの罠』(2012年度)、『手抜き除染』(13年度)と2年連続で新聞協会賞を取るなど朝日社内では“特別な存在”。それゆえ、朝日社内でも『同部の記事だから大丈夫だろう』ということで、記事内容への十分なチェック機能が働かなかったのではないか」
さらに別の産経関係者によれば、産経が朝日の東電撤退報道を否定する記事を掲載した直後、朝日から産経に抗議文が寄せられていたといい、「抗議文を送るほど自信があったにもかかわらず、一転して取り消し・謝罪とは……」と呆れた様子をみせる。
●現場レベルの意識の高さを評価する声も
一方、テレビ局関係者の反応は、どのようなものだろうか。
NHK局員は「多くのメディアが時間を割いて報道しているほど、局内ではそれほど大きな話題にはなっていません」と話すが、あるテレビ局ディレクターは、朝日の報道に対する批判が広がってから謝罪まで時間が空いた点について、「当初吉田調書を入手していたのが朝日のみだったため、『批判するほうが間違えている』と判断していた上層部の考え方に疑問を感じます。批判を受けた時点で、情報を精査する機能が働かなかったのだろうか」と疑問を投げかける。
同様に別のテレビ局番組デスクも、慰安婦報道について8月に取り消して以降これまで謝罪がなかったことについて、「誤報を認めつつも謝罪しないというのは、報道に携わる者にとって受け入れがたい。そもそも、読者・視聴者の信用を得なければ報道は成立しないということを、朝日上層部は理解すべき」と語る。