朝日新聞、任天堂記事捏造・隠蔽の背景に好き嫌い人事の横行 公正な処分は下せるのか
ただ、「経済部1年生」であろうが記者の基本として捏造だと認定されれば、重い場合は懲戒免職の処分は免れないことくらい知っているはずなので、この記者にも大きな責任があることは間違いないが、それをサポートできなかった点も重く見るべきである。しかも、これは大阪経済部だけではなく、東京経済部とも連携した記事であり、東京にはさらにベテランのキャップが存在しているだけに、未熟な若い記者を手助けするという、仕事を進めていくうえで基本的なことに目配せしていれば、この記者の失敗は防げていたのではないか。
朝日経済部のキャップの中には、自分の下に付く若い記者をこき使って、自分はふんぞり返っている者も少なからずいる。自分の無能さは棚に上げ、若い記者の悪口を上司に告げ口する者も散見する。朝日では、そういうキャップが統率力のある人材とみなされ、管理職になっていくのである。最近は、自分にだけはやたらと甘く、若い記者には厳しいキャップやデスクが増え、精神的に参ってしまう若い記者もいるやに聞く。
そして、この問題で最悪なのは、任天堂から抗議を受けたにもかかわらず、当時の大阪経済部長がそれを隠蔽してしまったことだ。その評判はあまり良くない。「若い時にも大阪で勤務していましたが、仕事よりも麻雀などの遊びが好きで、大きな記事はほとんど書いていないのではないか」と、在阪企業の役員経験者は振り返る。
この大阪経済部長は、元朝日労働組合本部委員長だ。委員長を務める前にも一度労組に専従職として出ている。2度も労組役員(専従職)を務めるキャリアは朝日の中でも極めて異例だ。朝日の場合、労組は「第二人事部」であり、労組本部委員長は会社に気に入られた者や将来を嘱望された者が務める傾向が強い。しかも、労組役員経験者は将来のポストや待遇がある程度約束されているため、判断や振る舞いが非常に政治的かつ傲慢になる者も少なからずいる。この隠蔽は、労組役員の経験者にありがちな政治的な判断から生まれたものと言えるだろう。
●注目される処分の平等性
この問題に絡んで注目される点は、捏造記事を書いた記者、支援しなかったキャップや隠蔽した部長がどのような処分を受けるかだ。この問題と似ている05年に発覚した田中康夫長野県知事(当時)の取材メモを長野支局記者が捏造した問題では、その記者は懲戒免職になり、指揮命令系統を遡って政治部の中にまでも処分者が出た。ちなみに、当時の東京本社編集局長が現社長の木村伊量氏であり、木村氏は更迭された。「長野支局虚偽メモ問題」と「任天堂社長インタビュー捏造問題」は、構造的に似ている。果たして処分は平等になるのだろうか。筆者の感覚では、任天堂の件のほうが隠蔽した分だけ悪質さは高いと思う。
さらにいえば、「吉田調書」報道の記事取り消しを発表した9月11日の記者会見で、木村社長は完全な調査結果が出る前の段階にもかかわらず、「関係者を厳正に処分します」と早々と宣言している。この「吉田調書」報道は、調書を捏造や改ざんしたわけではなく、「命令違反」の部分で行き過ぎた表現があったと現時点で判断されたものだ。この関係者と「任天堂社長インタビュー捏造問題」の関係者の処分の重さの比較も興味深いところである。