岩路さんは同番組の敏腕ディレクターとして、福島県内に住む子供の甲状腺がんの割合について特集を組んだり、原発事故で翻弄される被災者を継続的に取材していた。また、岩路さんの死を「“反原発”ディレクター衝撃の自殺!」という見出しで取り上げた9月9日発売予定の写真週刊誌「フラッシュ」が、発行元の光文社が理由を明かさぬまま販売中止としたことから、輪を掛けたように他殺説の噂が広がっていった。マスコミ関係者によると、フラッシュ回収の理由は海外セレブヌードの流出記事とされ、岩路さんも自室で練炭自殺していたことから他殺説はまったく根拠のないものだという。
岩路さんの親しい知人は「昨年、まだ幼い娘さんが奥さんと一緒に出ていってしまった。とにかく娘さんに会えないのがつらくて、玄関に残った小さな長靴の写真をFacebookにアップしていて、かなりこたえた様子だった」と語る。ただ「いつも娘さんに焦がれる近況をアップしていたが、いつの間にか消去していた」といい、身辺になんらかの変化があった可能性はある。
同知人によると、岩路さんのライフワークは冤罪事件取材。痴漢事件や強盗殺人罪で起訴されたネパール人が無罪となった東電OL殺人事件、茨城県で起きた強盗殺人事件で被疑者2人が無罪となった布川事件、最近では和歌山毒カレー事件やPC遠隔操作事件を追っていたという。
●冤罪を信じ取材を続けた鳥取連続不審死事件
鳥取連続不審死事件もその一つだった。「マスコミの捜査情報垂れ流し、犯人報道が冤罪事件を作り上げてきた。上田さん(前述の美由紀被告)の一件も危険な臭いがする」。岩路さんは知人に対してこんなメールを送っていた。同知人によると、1審で完全黙秘を貫いた上田被告だったが、こうした岩路さんの熱意が通じ、次第に心を開いていったという。福島の被災地取材で忙殺される岩路さんだったが、折をみて拘置所を訪れ、足を運べない時は手紙を出して、上田被告と信頼関係を築いていったという。
「実は昨年12月の控訴審までに、岩路さんは上田被告の告白本を大手出版社から出そうと動いていた。しかし上田被告の弁護人が大反対し、岩路さんと対立関係に陥ってしまった。岩路さんは弁護方針に立腹していた」(週刊誌記者)
2審で上田被告は一転して口を開き、反論を展開した。一方で新証拠を出すことはなく「岩路さんは『どうしても証言だけでは(無罪を)証明できない部分がある。説明がつかない』と、もどかしい気持ちをこぼしていた」(同)という。
冤罪を信じて事件を追求していた敏腕ディレクターの訃報は、閉ざされた空間で最後の審判を待つ、上田被告に届いたのだろうか――。
(文=編集部)