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山田修「展望!ビジネス戦略」(12月7日)

燃料電池車で脚光浴びる岩谷産業とは?水素ステ設置の卓越戦略、石油元売りが陥った罠

文=山田修/経営コンサルタント、MBA経営代表取締役
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燃料電池車で脚光浴びる岩谷産業とは?水素ステ設置の卓越戦略、石油元売りが陥った罠の画像1「岩谷産業HP」より

 岩谷産業(本社、大阪・東京)は年商5000億円規模の割には知名度が低く地味な企業だが、それは取扱商品の構成によるところが大きい。同社の主力事業はLPガスやカセットこんろを中心としたエネルギー事業、水素をはじめとする産業ガス事業である。そんな同社の名前が、今後急速に消費者の間で知れ渡ることになるかもしれない。

 10月、同社は 2015年度までに東京、名古屋、大阪、福岡 の4大都市圏を中心に、20カ所に商用水素ステーションを設置 すると発表。現在主流のガソリン車の次にくる駆動エネルギーとしては、電気自動車と水素自動車がすでに実用段階に入ってきている。普及の課題は、燃料を補給するスタンドの数が少ない点だ。多数のスタンドを新規に開設するというのは社会的インフラ整備レベルの問題であり、行政の補助はもとより巨額な設備投資を必要とする事業となる。

 11月に入って同社は追い打ちを掛けるように、15年開設当初から「イワタニ水素ステーションにおける水素価格を1100円/kgに設定する」と発表した。

「この価格は、資源エネルギー庁ロードマップに掲げられている『2020年にはハイブリッド車の燃料代と同等以下を実現する』という目標を、5年前倒しして販売当初より実現したものです。FCV【編註:燃料電池車】の本格普及に向けて水素供給インフラの整備を進める当社は、そのような市場からの強いご期待にお応えすべく今回の価格設定に至りました」(11月14日付同社プレスリリースより)

●イノベーションのジレンマ

 戦略的に見ると、同社の今回の決定は非常に見事だといえる。開始当初は赤字となるが、その総額はスタンド20カ所の設備投資に比べれば取るに足らないだろう。水素ガスの製造・供給コストはエクスペリエンス・カーブ(累積製造量によるコスト低減)により時間がたつにつれて急激に下落し、数年を経ずして事業は黒字化するだろう。

 さらに同社にとって有利なのは、競合相手となるはずの石油元売り大手が水素ステーションに参入できない点だ。傘下に無数のガソリンスタンドを抱え、それらの多くが加盟店として独立した法人であり、それらの反発が必至だからだ。そもそも石油元売り大手の主力事業は石油の精製であり、水素ガスの普及は、その主力事業の脅威となりかねない。つまり、典型的な「イノベーションのジレンマ」である。水素ガスという「破壊的技術」に対して、自動車エネルギーで先行する石油元売り大手は動けないのだ。

 今後10年、電気自動車や水素自動車が普及していくといわれる中、自動車エネルギー市場ではどのような動向が予想されるのか、次稿で考察してみたい。
(文=山田修/経営コンサルタント、MBA経営代表取締役)

山田修/経営コンサルタント、MBA経営代表取締役

山田修/経営コンサルタント、MBA経営代表取締役

経営コンサルタント、MBA経営代表取締役。20年以上にわたり外資4社及び日系2社で社長を歴任。業態・規模にかかわらず、不調業績をすべて回復させ「企業再生経営者」と評される。実践的な経営戦略の立案指導が専門。「戦略カードとシナリオ・ライティング」で各自が戦略を創る「経営者ブートキャンプ第12期」が10月より開講。1949年生まれ。学習院大学修士。米国サンダーバードMBA、元同校准教授・日本同窓会長。法政大学博士課程(経営学)。国際経営戦略研究学会員。著書に 『本当に使える戦略の立て方 5つのステップ』、『本当に使える経営戦略・使えない経営戦略』(共にぱる出版)、『あなたの会社は部長がつぶす!』(フォレスト出版)、『MBA社長の実践 社会人勉強心得帖』(プレジデント社)、『MBA社長の「ロジカル・マネジメント」-私の方法』(講談社)ほか多数。
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