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『西郷どん』、「空気読め」イラつく視聴者続出…だが想像をかきたてる好演出!

文=吉川織部/ドラマウォッチャー
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 鈴木亮平が主演を務めるNHK大河ドラマ『西郷どん』の第43回「さらば、東京」が18日に放送され、平均視聴率は前回から0.3ポイント増の11.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)だった。

 欧米から帰国した大久保利通(瑛太)は、西郷隆盛(鈴木)の朝鮮派遣に強硬に反対する。だが、西郷と共に留守政府を預かっていた江藤新平(迫田孝也)らはこれに反発。議論を尽くして決したことを覆そうとするのは許しがたいとして、大久保や岩倉具視(笑福亭鶴瓶)を政府から追放すべきだと唱える。ところが、岩倉は太政大臣・三条実美(野村万蔵)の体調不良に乗じて太政大臣代行に就任。明治天皇から、西郷の朝鮮派遣は中止せよとのご裁断を引き出すことに成功する。西郷はこれに対し、「我らの尽くした議論が意味をなさずでは、我らがここにいる意味もなくなる」として、政府を去ることを決断。大久保と対立していた江藤新平や板垣退助(渋川清彦)らも政府を去った――という展開だった。

 全体的に大久保や岩倉をずる賢い悪党として描いたような内容であり、「そこまで悪者として描いて大丈夫かな」と多少気にはなった。ただ、西郷の幼なじみである大久保については、和解を思わせる場面が終盤で描かれ、一応のフォローがなされた。西郷はいきなり大久保邸を訪ね、「自分の存在が政府で邪魔だったのなら、はっきり言ってくれればよかった。何も周りを巻き込むことはなかった」と相変わらず人のいいことを言い始めたのだ。

 大久保は目を合わせず、「卑怯者とでもなんとでも言え。憎め」と悪ぶって答えるが、西郷は挑発に乗らず、「ずっと2人で支え合ってやってきたのだから憎めるはずがない」と答える。そして、「あとはおはん(お前)のやり方でやれ。やるなら思いっきりやれ」と大久保を激励する。自分をだまし討ちで排除してまで成し遂げたい強い意志があるのなら、その信念を貫けという意味だろう。強がっていた大久保の両目がみるみるうちにうるんでいく。そして一言、「吉之助さあ」と呼びかけた。おっ、もしかして謝るつもりだろうか。それとも礼を言うのだろうか--。

 だがその時、大久保の側室・ゆう(内田有紀)がお茶を持って部屋に入ってきた。なんというバッドタイミング。会話はそこで途切れ、西郷はそのまま大久保邸を後にした。2人が顔を合わせたのは、これが最後になったという。もし、途中でゆうが部屋に入ってこなければ、大久保は西郷に何を言うつもりだったのだろうか。もしかしたら、これまで何度も対立と和解を繰り返してきたように、今回も最後にはわかり合えたのだろうか。

 あまりにもいいところで邪魔が入る展開に、視聴者からは「ゆうにイラっとした」「空気読めよ」とツッコミが入ったが、ドラマとしては大いに“あり”だと思う。すべてを台詞で言い切らずに余韻を持たせるとともに、視聴者の想像をかき立てるいい場面を演出できたからだ。この場面については、「大久保は本心では和解したかった」と受け取るのが普通だと思うが、実はそうではなく、あらためて決別を告げるつもりだったとも解釈できる。今後の2人の関係性に幅を持たせる意味でも、「空気の読めない側室の登場」は大いに意味があったといえる。

 残り回数もごくわずかとなっているが、西郷と大久保の複雑な関係は、おそらく最終回までなんらかのかたちで描かれるに違いない。脚本の中園ミホ氏は、一匹狼のスーパーヒロインが権威主義・前例主義の医師らをギャフンと言わせる医療ドラマ『ドクターX』(テレビ朝日系)の大ヒットで知られるが、『西郷どん』で描かれる西郷と大久保の関係性は、単純な善悪の対立ではない。西郷はひたすら大久保を信頼し、強い友情を抱く一方、大久保は西郷への強いあこがれと尊敬の念を抱くとともに、嫉妬に似た感情をずっと抱いていたのだろう。西郷の生涯を、この2人の人間関係を軸に最後まで描き切ることができれば、大河ドラマ『西郷どん』は有終の美を飾れるのではないだろうか。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)

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