AI時代のエンタメビジネスはビッグチャンス!今こそクリエイターは起業すべき

●この記事のポイント
・IVS2025の注目コンテンツのひとつ「IVS Entertainment」は、エンタメ領域とスタートアップの可能性を探る。
・IVS Entertainmentの責任者である中村ひろき氏は、IVSが参加者にとって事業に必要な『武器』を手に入れる場所になるはずだと胸を張る。
7月2~4日に京都で開催される日本最大級のスタートアップカンファレンス「IVS2025」。およそ1万2000人が訪れると見込まれており、スタートアップ企業関係者のみならず、大企業の決済権限を持つ担当者や金融機関、投資家などスタートアップとの連携を模索する人々や、スタートアップに興味を持つ人々も多く集う。特に2023年からは招待制が廃止され、誰でも自由に参加できるようになったことから、参加者が爆増した。
そんなIVSにおいて、特に今年注目されているのは、AI、ディープテック、グローバル、ジャパン、シード、グロースといった先端領域が並ぶ7つのテーマゾーンだ。その中で、ひときわ異彩を放つのが「IVS Entertainment」だ。その責任者を務めるStudio ENTRE株式会社プロデューサーで、一般社団法人スタートアップスタジオ協会共同代表理事の中村ひろき氏に、エンターテインメント領域におけるスタートアップの可能性、そしてIVS Entertainmentが目指す未来について話を聞いた。
目次
- エンタメ領域におけるスタートアップの可能性
- IVSとの出会い…エンタメ×スタートアップの可能性
- IVS Entertainmentが目指すもの:大企業とスタートアップ、そしてクリエイターの融合
- エンタメスタートアップの未来
- IVS Entertainmentの挑戦:クリエイターとビジネスの垣根をなくす
エンタメ領域におけるスタートアップの可能性
中村氏がプロデューサーを務めるStudio ENTREは、エンターテインメントに特化したスタートアップスタジオだ。スタートアップスタジオという言葉は、日本ではまだ馴染みが薄いかもしれないが、中村氏はその普及にも尽力し、スタートアップスタジオ協会の共同代表理事も務めている。
「エンターテインメントの世界で新規事業の立ち上げを続ける中で、エンタメ領域の『スタートアップ』の可能性を強く感じ、起業家と一緒に事業を創り上げていく『スタートアップスタジオ』という形でStudio ENTREを立ち上げました」
中村氏とコンテンツビジネスの出合いは、早稲田大学を卒業した後に新卒で入社したDMM.comでの新規事業立ち上げに遡る。アニメや音楽事業の立ち上げ、IP(知的財産)活用に携わり、その経験が、現在に繋がっているという。
Studio ENTREでは、AIを活用した音楽マネージャーサービスを運営する『Baby jam』や、音楽NFTマーケットプレイス『.mura』といった独自のサービスを輩出し、ライトノベル出版社『BookBase』の経営にも携わるなど、幅広いエンタメ領域で実績を上げている。
IVSとの出会い…エンタメ×スタートアップの可能性
――エンターテインメントと一口に言っても、範囲は広いと思います。中村さんが特に強みとしているのはどのような領域でしょうか。
中村氏 メディアやコンテンツの領域です。最近ではスタートアップ業界の中でもエンターテインメントが注目されるようになり、コンテンツに投資が集まりスタートアップが生まれやすい環境になってきました。Studio ENTREを立ち上げた当初は、エンタメで投資を募るのが難しい面もありましたが、現在は環境が大きく変わったと感じます。
――IVSと関わるようになったきっかけを教えてください。
中村氏 2023年に京都でIVSが開催された時に、「IVS Sandbox」という企画を持ち込んだのが始まりです。スタートアップスタジオを運営する上で、常にこれから起業しようとする個人との出会いを求めています。IVSという濃密な空間であれば、そういった人々が集まり、多くの面白いプロジェクトが立ち上がるのではないか、という思いから企画を持ち込みました。今年も、エンタメエリアのチーフディレクターを務めつつ、「IVS Sandbox」も継続しています。
IVSに「エンターテインメント」という専門エリアが設けられること自体、数年前には考えられませんでした。ディープテックやAIといった注目度の高い分野と並んでエンターテインメントが配置されることは、とても光栄だと感じています。
――ご自身は、エンターテインメントとスタートアップの組み合わせに、どのような面白さや可能性を感じていますか。
中村氏 私はStudio ENTREを2020年から運営していますが、当初よりエンタメ領域でスタートアップを始めやすくなっていると感じています。日本のコンテンツ産業はスタートアップに限らず、非常に規模が大きく、国全体で大きくしていく意識があります。また、最新技術が最初に取り込まれるのがエンタメだと言われることも多く、そこがスタートアップがエンタメに挑戦することの相性の良さにも繋がっているのだと思います。
――日本のエンタメコンテンツは海外での人気も高いので、グローバル展開しやすい側面はありますか。
中村氏 日本のエンタメはすでに海外で受け入れられている領域なので、スタートアップにも大きな可能性があります。大きなIPの方が海外展開が進むことが多いですが、VTuberのようにスタートアップ業界から世界中に広がるエンタメも増えており、今後も新しいエンタメが生まれ続けていくはずです。
日本国内では既に多くの人々がエンタメを楽しんでいるため、市場の急拡大は起きづらいかもしれません。しかし、地球規模で見た時には、経済発展とともにエンターテインメントを楽しむ人々は増えており、日本発のグローバルエンタメスタートアップも大いに期待できると思います。
IVS Entertainmentが目指すもの:大企業とスタートアップ、そしてクリエイターの融合
今年のIVSでは、AI、エンターテインメント、ディープテック、グローバル、ジャパン、シード、Growthという7つのテーマゾーンが設置される。各テーマに沿った革新的なスタートアップと投資家との出会いを促進するのが目的だ。
そのなかで「IVS Entertainment」エリアでは、アニメ、ゲーム、漫画、音楽、体験、映画、アートといった日本の豊かなエンタメコンテンツに焦点を当て、『Go Global』『IP経営』『Creative Founder(起業家自身)』という三本柱をセッションテーマに掲げ、世界を熱狂させるエンタメビジネスの最新トレンドを深掘りする。
IVS Entertainmentが主な対象者としているのは、以下のとおり。
・エンタメ領域で更なる大きな市場に出ていこうとしているスタートアップ経営者
・エンタメ領域でスタートアップ起業を志す起業家候補
・エンタメ領域でスタートアップとの連携を模索している事業会社
・エンタメ領域の最新分野にて投資先を探索しているVC・CVC
IVS Entertainmentエリアのチーフディレクターとして、中村氏が特に注力しているのは、エンターテインメント業界の「特殊性」を活かすことだという。
「エンターテインメント領域は、これまで業界を支えてきた大企業の存在感が非常に大きいのが特徴です。ITなどの歴史が浅くダイナミックな市場とは異なります。大企業が行っている先進的な取り組みとスタートアップの機動的な動きをどちらも知ることができ、良いシナジーが生まれるエリアにしたいと考えています」
エンタメ分野へのスタートアップ投資は拡大傾向にあり、投資家の関心も高まっている 。その背景には、IPという分かりやすい資産の、金融との相性の良さや、タレントやインフルエンサーといったクリエイターによるビジネス進出などのトレンドがある。
IVS Entertainmentでは、これらのトレンドを「Go Global」「IP経営」「Creative Founder」の三本柱としてセッションテーマに掲げ、議論を深めていく。
エンタメスタートアップの未来
――エンタメ業界では、育ったスタートアップが大企業に吸収されるケースも散見されます。今後、スタートアップがIPO(新規上場)を果たしたり、M&Aで買収する側に回るほど成長する余地はあると考えられますか。
中村氏 十分にあり得ます。エンタメ企業はIPという分かりやすい資産を持つため会社の価値がわかりやすいです。エンタメスタートアップはそのIP、コンテンツを作り続ける仕組みを築くことが重要です。その仕組みを持った会社は、今後も大きく成長していく可能性が高いと考えています。VTubeのように、新しいコンテンツを継続的に生み出す仕組みを構築することが、エンタメスタートアップが企業価値を高める上での鍵になるでしょう。
――そのなかで特に注目している分野はありますか。
中村氏 これまでIPが注目されながらも、スタートアップ投資という点ではリスクが高くなかなか手出しされなかった部分があります。しかし、AIをIP開発に活用する時代が来たことで、高いコンテンツ制作ノウハウを持つスタジオが、クオリティを落とさずにAIで効率を上げる『スタートアップ化』の流れがこれがこれから一気に広がっていくとみています。
――IVSに初めて参加する方にメッセージをお願いします。
中村氏 年に一度、スタートアップに関わるほとんどの人が集まるお祭りです。初めてIVSに参加する方、これから起業を考えている方にとっては、まずは会場の空気を吸うだけでも刺激になると思います。自分の事業をスケールさせたい、このチャンスをものにしたいと考えている方は、会いたい人がどこに登壇するのかを狙い定め、名刺交換したい人をリストアップするくらいの目的意識を持って来場することをお勧めします。IVSは、自分の事業に必要な『武器』を手に入れる場所になるはずです。
――中村さんは、今後のエンタメ業界がどのように発展してほしいと考えていますか。また、どのようなビジョンを描いていますか。
中村氏 「クリエイターが思う存分創作活動に没頭でき、それが最大限に求める人に届き、熱狂がよりたくさん生まれる世界」を実現したいです。生成AIやブロックチェーンといったテクノロジーの発展により、クリエイターが作ったものが純粋に求めている人の手にまっすぐ届き、お金が動くような世界観が、もうすぐそこに来ていると感じています。クリエイターもファンも皆が幸せに生きていけるようなサービスをどんどん作っていきたいです。
クリエイター自身がスタートアップの社長となり、自ら資金調達し、作品を作り、届けたい人に届けていく世界がもっと広がると思います。プラットフォームに依存するのではなく、クリエイターとファンがダイレクトに繋がっていく関係性が広がっていくのではないでしょうか。
IVS Entertainmentの挑戦:クリエイターとビジネスの垣根をなくす
――IVS Entertainmentは、未来のエンターテインメントにどのように寄与していくのでしょうか。
中村氏 クリエイターがビジネスの世界に踏み出すハードルをなくしたいと思います。IVSはスタートアップ業界のイベントとして始まったため、正直まだクリエイターの参加は少ないのが現状です。エンターテインメントを“ど真ん中”で作っている人たちからすると、投資や金融の話は縁遠いと感じるかもしれませんが、IVS Entertainmentエリアでは、そうした垣根をなくし、エンタメビジネスに関わる全ての方に気軽にIVSに来てもらえるような場にしたいと考えています。スタートアップ起業家もクリエイターも、エンタメに関わる多様な人々が混ざり合うことが、IVS Entertainmentが目指すべき姿です。
――最後に、中村さん自身が、今年のIVSにどんなことを期待していますか。
中村氏 エンタメ×スタートアップに関わる方がたくさん集まるイベントになるでしょう。他のスタートアップの事業から着想を得たり、自分の事業をブーストさせるために大企業の投資部門の担当者と商談をしたり。IVSは、次に描きたい自身の事業の未来に必要な“武器”を手に入れるために、ぜひ来てほしい場所です。
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中村氏がビジョンとして掲げた「クリエイターが思う存分、創作活動に没頭でき、それが最大限に求める人に届き、熱狂がよりたくさん生まれる世界」を実現させるため、IVS Entertainmentは日本のエンタメの未来を担う新たな才能とビジネスが交差する、熱気に満ちた場となるに違いない。
(構成=UNICORN JOURNAL編集部)