出展すれば人生が動く…IVSが仕掛ける“偶然と必然”の出会い「Startup Market」
●この記事のポイント
・「IVS2025」において、満を持して開催されるのが「IVS Startup Market」だ。“会いたい企業と確実に会える”ことをテーマとして、他に類のないネットワーキングの場が用意された。
・日替わりで計300社が出展するマーケットは、日本のスタートアップエコシステムに大きな影響を与える可能性がある。
起業家と投資家、大企業、支援者が交差する日本最大級のスタートアップカンファレンス「IVS」。その新たな起爆剤として今年、京都で初開催されるのが「IVS Startup Market」である。
このマーケットは、起業家にとって資金調達や事業提携といった「必然的な出会い」が生まれる場所だ。同時に「偶然の出会い」から新しいビジネスが芽吹く場にもなるだろう。この仕掛け人の一人が、“ちゃけ”こと上中健氏である。異色のキャリアを歩んできた彼は、なぜIVSで「マーケット」を創ろうとしたのか。そしてその裏にある本当の狙いとは何か。
目次
- 異端のキャリアが繋いだIVSとの出会い
- 転職…クリエイティブの世界に飛び込んだ理由
- 「スタートアップと会えなかった」声から生まれたマーケット
- “期待値を裏切る出会い”を生む会場設計
- スタートアップを主役に──起爆剤としての「マーケット」
異端のキャリアが繋いだIVSとの出会い
「ハチャメチャなキャリアでしたよ」。そう笑うのは、今回のIVS Startup Marketでサブディレクターを務める上中健氏──通称ちゃけ氏だ。
彼は新卒で人材系スタートアップ・ポテンシャライトの第一号社員として入社し、シリーズA前後の企業の採用支援に奔走。複数のスタートアップを1年で40人規模にまで成長させた経験を持つ。
その中で、「お金がないと人も採れない」というリアルな課題を痛感した上中氏は、次に金融の視点からスタートアップを支援したいと考え、株式投資型クラウドファンディングのイークラウドへ転職する。そこで2年間で800社以上のスタートアップと関わり、「資金」と「成長」の密接な関係性を肌で知ることとなる。
そんなある日、イークラウドの社長の何気ない一言「IVS行っておいでよ」から、運命の歯車が回り出した。那覇でのIVSにスタッフとして参加した上中氏は、「受付の兄ちゃん、挨拶が良すぎる」という来場者の声から、企画スタッフとの交流が生まれ、以後、2023年にはインキュベーションエリア、2024年にはHR企画のヘッドを務め、そして2025年、ついにIVS Startup Marketの立ち上げを任されることとなった。
転職…クリエイティブの世界に飛び込んだ理由
「人の生活を良くするか、人体を良くするか──自分のキャリアの方向性を考えていた」。金融支援の先で、自分はどこに向かうべきかを考えた上中氏。彼が選んだのは「人の生活を良くする」クリエイティブの領域だった。
転機は2023年のIVS京都で、現在の勤務先である「The Breakthrough Company GO」のセッションだった。彼が担当していたエリアで最も人が集まり、セッション後の熱気に心を打たれたという。「事業クリエイティブは、これからすごく重要になる。そう確信した」と上中氏は語る。
彼はその日からGOへの入社を志願し続けた。自費で同社のクリエイター養成講座を受講し、1年かけて想いを伝え続けた結果、ついに内定を勝ち取った。そして、その日のうちにイークラウド退職を決断。「ごめんなさい、辞めます」と即断即決の転職劇であった。
「スタートアップと会えなかった」声から生まれたマーケット
2024年のIVS後、上中氏の元には「スタートアップと、結局ちゃんと会えなかったんだよね」という来場者の声が多く寄せられた。このフィードバックを受け、彼は「もっと気軽にスタートアップが出展でき、来場者と直接会える場所をつくろう」と発案。スタートアップが安価に出展できる「マーケット」の構想を打ち出し、その企画が実現した。
チーフディレクターはVC出身の松永和晃氏が務め、上中氏は「現場設計と運営の仕掛け人」として裏側を担っている。「深い知見とイベント設計の役割分担がうまく機能している」と上中氏は話す。
今回のマーケットでは1日80社超、3日間で計300社が出展予定である。AI、SaaS、ディープテックなど多様なジャンルが集結し、来場者は「自分が会うべき企業」に的を絞って効率的に回ることが可能だ。特に注目すべきは、出展フェーズの構成である。シード〜シリーズAに加え、レイターステージ企業まで多数出展し、資金調達にとどまらず、事業提携や営業先開拓を目指す企業にも価値ある場となっている。
来場者向けには、すべての出展社をまとめたスプレッドシートを公開している。業種・フェーズなどでフィルターをかけて、効率的な訪問が可能だ。上中氏は「スプレッドシートをダウンロードし、必要に応じてソートをかけて会いに行く企業を絞ってから来場してほしい」とアドバイスする。3日間、出展企業は入れ替わるため、「常に盛り上がる企画になると考えている」と胸を張る。
出展企業の多くは「VC推薦」「団体推薦」「公募」で選ばれており、VCが案内する“推薦ツアー”もサイドイベントとして用意されている。来場者は「会いたい企業」に投資するVCと一緒に会場を巡ることで、マッチングの効率が飛躍的に上がる仕掛けである。
「VCに案内されながら、狙い撃ちで出会える。これは他にない強みだと思う」と上中氏は語る。
“期待値を裏切る出会い”を生む会場設計
マーケットの場所はCentral Park。会場のど真ん中に位置し、来場者が必ず通る動線上に設置されている。「展示が混んできたら僕が交通整理していると思います」と笑う上中氏。現場で汗をかきながらも、来場者が偶発的にスタートアップと出会える“設計”にこだわっている。
さらに上中氏は、「一社でも“会いたい”企業があるなら、それだけで来る理由になる。出展すれば必ず何かが起こる、そんな場を目指している」と強調する。
IVS Startup Marketが日本のスタートアップエコシステムに与える影響について、上中氏は「IVSは起業家と投資家のマッチングが最も重要であるし、それが一番のメインコンテンツであるという点は揺るがない」と、IVSの根幹にある考えを強調する。これはIVS代表である島川敏明氏の想いだ。
その上で上中氏は、「このスタートアップマーケットは、それを具現化しやすい施策の一つだと考えています」と、その意義を語った。
最後に、IVS参加を迷っている人へ向けて、次のように力強くメッセージを送る。
「IVSは門戸が広くて、スタートアップ初心者にも開かれた場所です。トレンドを知りたい人、新しい人と出会いたい人、まず来てみてください。僕みたいにIVSが転機になる人もきっといる。人生を変える“偶発的な一歩”が、IVSには詰まっていると思います」
スタートアップを主役に──起爆剤としての「マーケット」
上中氏が託された“第1回目”のIVS Startup Market。彼の言葉には、自らのキャリアを重ね合わせた熱が込められている。
「IVSはネットワークが主役です。その中で、スタートアップが”真の主役”になる仕掛けがマーケットだと思っています。出展すれば資金調達が決まる、商談が生まれる──そうなれば、IVSが“行く価値ある場所”として確立されるでしょう」
「IVSはあくまでネットワーキングを主体として、その横にセッションがあるというところに今回は枠組みを変えています」と、上中氏は今回のIVSのコンセプトを説明する。そのうえで、「偶発的な出会いは大事にしたいし、必然的な出会いも大事にしたい。おそらくスタートアップマーケットが似合うのは、必然的な出会いのほうです」と語り、「1社でも会いたい企業があるなら来てほしい」と、来場を促す。
「出展者が、来場者が、VCが、それぞれの目的を叶える。その化学反応を起こせる場として、IVS Startup MarketがIVS全体のエンジンになればいい」
“偶然と必然が交差する場所”。それがIVS Startup Market──日本のスタートアップエコシステムに、確かな一石を投じることになるだろう。
(文=UNICORN JOURNAL編集部)